アメリカのDVDがなぜ安いのかを考えてみる

アメリカではDVDが安く、日本では高い。
ハリウッド映画をみても、アメリカでは20ドル(1ドル115円として2300円)に対して日本では3000円。
アニメはもっと違う。日本では3話5000円ほどするが、アメリカでは4話30ドル(3600円)ほどで、その後シリーズ全てが入ったDVD-BOXが100ドル以下で販売されたりする。


この価格差はどこから来るのか。
単純に考えれば、価格が安いのはたくさん売れるからであり、少数しか売れないものは価格が高くなるということだろう。
日本においてDVD価格が高いのは、少数しか売れないからということになる。
では、なぜ日本ではDVDが売れないのだろうか?

レンタル市場の強い日本

http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070613/uni.htm

DVDの普及率は米国は90%以上で世界一。世帯あたりのDVD購入枚数も年間14タイトルという統計もあり、DVDが売れる市場です。日本では、非常に強いレンタルマーケットがある。日本ではレコーダが普及していますが、米国は市場が無いのに等しい。


ビデオソフトの市場規模を日本とアメリカで比べてみると以下のようになる。
アメリカの2006年のビデオソフトの市場規模(=消費者の支払額)は249億ドル。そのうち、164億ドルがセル市場で、85億ドルがレンタル市場だ。
一方日本はといえば、2006年(2005年9月から2006年8月)の市場規模が6695億円。そのうち、3264億円がセル市場で、3431億円がレンタル市場だ。*1
アメリカでは、レンタル市場がセル市場の半分しかないが、日本ではレンタル市場がセル市場を上回っている。


アメリカではDVDを買う傾向が強く、日本ではDVDはレンタルして見る傾向が強いことがわかる。
おそらく、地理的な問題もあるのだろう。1億人超がカリフォルニア州よりも小さい土地に住まう日本では、全国各地にビデオレンタル店があり、気軽に借りられるためだ。


アメリカではDVDメディアの登場により、DVDセル市場が急激に伸びたためレンタル市場が打撃を受けたようで、JVAの会報に、ここ数年でレンタル料金が4ドルから5ドル程度へと上昇したという記述があった。月額制への転換を狙う目的もあったようだが、レンタル回数が減り採算が取れないことも大きいのだろう。

レコーダ市場の強い日本

日本では、DVDレコーダが売れるが、アメリカでは全く売れないのだそうだ。

http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070613/uni.htm

日本ではレコーダが普及していますが、米国は市場が無いのに等しい。

レコーダに関しては、「ワオ」しかいえないですね(笑)。凄い価値を持った製品だと思います。ただ、消費文化はアメリカと日本で全く違うと感じました。


東芝・藤井氏「PS3が次世代DVDの普及を阻んでいる」 − 安価なレコーダーを近々発表か - PHILE WEB

日本市場は特殊で、日本人の多くは、DVDはVHSの置き換えと認識している。これに対して、アメリカでは、DVDは映画を観る機械と認識されている。

日本のユーザーは、パッケージ・メディアに好きなコンテンツを落とせるかどうかを極めて重要視するが,米国の視聴者は,そんなことは意に介さないようだ。ハード・ディスク装置にためて,好きなように見ては消すというテレビ視聴スタイルが普通なのだ。


この二つが意味するのは、日米ともテレビを録画して見るという行為は同じだが、日本の場合は録画したデータをVHSやDVDといったメディアに残したいという希望が強く、アメリカでは一度見たらデータを上書きすればよく保存することを考えないということだろう。


ただ、一方でアメリカでもDVDレコーダが売れ始めてきたという話もある。
【麻倉怜士CES報告1】アメリカの消費者はやっとDVDレコーダーを欲しがってきた | 日経 xTECH(クロステック)

 テレビ放送の記録機器として,アメリカのユーザーはDVR(ハード・ディスク単体レコーダー)を好み,日本のユーザーはDVDレコーダーを好む---。これは,日米のエアチェックに対する温度差を反映した民族的な嗜好の違いであると,長い間,受け止められてきた。しかし「2007 International CES」の開幕の前々日(現地時間の1月6日)に開かれた,米国の家電業界団体Consumer Electronics Association(CEA)による業界展望報告を聞いたところ,意外にも,アメリカのユーザーもDVDレコーダーが好きになってきたという。

 2006年に最も伸びた家電製品(出荷額ベース)として液晶テレビ,ポータブル・ナビゲーションに次ぎ,DVDレコーダーは前年比132%増で3位に入り,さらにDVD/VHSレコーダーは同97%増で4位だった。ケーブル用セットトップ・ボックスを中心にしたDVRは,58%増で9位と一時の勢いはない。

低価格でもライトユーザーは購入しない

日本でもDVDの登場によりセル市場は急激な伸びを示している。
ただし、DVDを購入する層がアメリカほどには増えなかったようだ。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20070209/118742/?P=2

これまではライトなファンを増やすためには、「価格」が最も関係あるんじゃないかということで、いわゆる米国映画会社系メディアが中心になって、低価格を売り物にしたプロモーションを実施してきました。例えば、2枚買ったら1枚もらえるとか、極端な価格設定で1枚を980円にしちゃうとか、そういうプロモーションです。

 この結果については、見方はいろいろありますが、結局のところコアのユーザーがたくさん買って終わったようなんです。だから、このやり方では僕らの目的としていた、ユーザー層の裾野を広げることが、本当にできているかどうかは確信を持てませんでした。


このように、一時期非常に安い価格で購入者を増やそうとプロモーションを行ったものの購入者数が思うように増加せず、結局、価格がプロモーション価格で定着せずに3000円程度まで戻ってしまった。
ライトユーザーは、安くしたところでDVDを購入するという行動に出ないといえよう。

日本ではDVDを買うという意識が薄い

まとめてみると、以下のようなことがいえる。


日本では、レンタル市場が大きな存在感を示し、またDVDレコーダーの普及によりテレビ放送を録画してDVDに保存するという行為が行われている。このため、アメリカに比べ、日本ではDVDを購入するという意識が薄い。


その結果として、アメリカは大量販売による低価格が実現し、日本ではそれほど多くの販売数が期待できないため高価格となっている。

*1: 数値は会報|一般社団法人日本映像ソフト協会より。アメリカの市場規模はJVA REPORTNo.124、日本の市場規模はJVA REPORT No.122に掲載されている。