『アニメビジネスがわかる』におけるビデオグラム市場(グロス)の修正を試みる

『アニメビジネスがわかる』で推計されているアニメ産業の市場において、ビデオグラム市場がすべてセル市場という前提で推定がなされていた。
この本の中では、ビデオグラム市場をすべて販売用とみなしており、レンタルに関する記述が一切なかった。しかし、日本ではレンタル市場の存在感が大きく無視できる規模ではない。


無謀なことと思いつつも、ビデオグラム市場をセル市場・レンタル市場でわけてグロス市場の推定を行い、『アニメビジネスがわかる』におけるビデオグラム市場の推定値の修正を試みた。
目にとまるといいなと思い、著者増田氏の関連があると思われるエントリにトラックバックしてみる。

『アニメビジネスがわかる』という本について

アニメビジネスがわかる

アニメビジネスがわかる


『アニメビジネスがわかる』(増田弘道著)の前半では、アニメ産業の市場規模をグロス市場とネット市場の両方で推定しようという試みがなされている。
このような試みが成された本がほとんどなく、算出方法とそのロジック、元となるデータの在処がわかりやすく書いてあり、とても素晴らしい本だ。

『アニメビジネスがわかる』におけるビデオグラム市場の記述

ここ数日のエントリでも何度か使わせていただいた。
深夜アニメのお布施の効率 - Obra de Sobra よしなしごとでは、消費者から見てアニメ会社に一番効率よくお金がいく方法はどういうものなのかという視点で数字を並べた。
そこで本書の中に、レンタルで見た場合の数字がないことに気づいた。たまたま、レンタルの数字を『「フラガール」を支えた映画ファンドのスゴい仕組み』(岩崎明彦著)で見つけたため、その記述を使わせてもらった。


上記エントリのブクマコメントでid:kanoseさんが以下のようにコメントしていた。

『アニメビジネスがわかる』を読み直したけど、レンタル市場に関してはあまり触れられてなかったなあ。資料がないからか


ビデオグラム市場にはセル市場とレンタル市場があるが、『アニメビジネスがわかる』を見返してみたところ、ビデオグラム市場はすべてセル市場とみなしてグロス市場が推計されていた。

アニメのビデオグラム市場(グロス)の推定についての疑問点

日本ではビデオグラム市場はレンタル市場の存在感が大きい。
アニメも、青年層向けのアニメはセルが中心だが、キッズ向けのアニメについてはレンタルの存在感が大きい。キッズ向けアニメの中にはDVDをレンタル市場にのみ出している作品もあると聞く。


アニメビジネスがわかる: 『アニメビジネスがわかる』解説17

アニメの小売市場は1兆6400億であるがその構成はどのようになっているであろうか。まずグロス(小売市場)における割合を見てみる。

(1)上映 1.24%
(2) 放映 3.09%
(3) ビデオグラム 7.61%
(4) 自動公衆送信 0.09%
(5) 商品化権市場 39.6%
(6) 音楽関連市場 2.68%
(7) 海外市場 48.33%

*1
このように、ビデオグラムはアニメ小売市場(グロス市場全体)の7.61%を占めている。ここの数値が15%違えば、全体の1%の違いとなるためそれなりに重要性があると思われる。


アニメに限らない、ビデオグラム市場全体について見てみる。
JVA(社団法人日本映像ソフト協会*2によるとビデオ出荷額ベースでは次のようにセル市場が圧倒的に金額が大きい。
2006年はセル市場2655億円、レンタル市場1033億円。*3
2005年はセル市場2227億円、レンタル市場1058億円。*4
しかしながら、消費者が支払う金額としてのビデオグラムのセル市場とレンタル市場の規模は次のようにレンタル市場のほうが大きくなる。
2006年(2005年9月から2006年8月)ではセル市場3264億円、レンタル市場3431億円。
2005年(2004年9月から2005年8月)ではセル市場3124億円、レンタル市場3578億円。*5


レンタル市場では、ビデオ出荷額にくらべてグロス市場の規模が大きくなる傾向があることがわかる。
レンタル市場も含めてセル市場とみなしてグロス市場を推定したことで、ビデオグラムのグロス市場が小さく出ていると思われる。

アニメのビデオグラム市場(グロス市場)を推計してみる

アニメのビデオグラム市場を、セル市場とレンタル市場で分け、それぞれを推定してみる。
セル市場については、『アニメビジネスがわかる』の方法をそのまま適用する。

日本アニメーションのビデオ出荷額

JVAの会報の毎年4月号にビデオソフトのジャンル別・流通別の出荷額が掲載されている。
2005年の日本アニメーションのビデオ出荷額は次のようになる。金額単位は百万円である。

ジャンル セル レンタル 合計
日本のアニメーション(一般向け) 63,208 17,143 80,487
日本の子供向け(アニメーション) 6,012 5,019 11,069
合計 69,220 22,162 91,556
セルのグロス市場

メーカー出荷額が、小売定価の70%。
小売価格が、定価の90%(10%OFF)として計算する。

  • 2005年

定価市場 = 69,220 / 70% = 98,886
グロス市場 = 98,886 * 90% = 88,997

レンタルのグロス市場

ビデオ出荷額と市場規模の比率から、レンタル市場を推定する。
ビデオグラム全体のグロス市場の推定と時期を合わせるため、ビデオ出荷額についてはJVAの月別速報数値から計算した。

  2006年セル 2006年レンタル 2005年セル 2005年レンタル
ビデオ出荷額 248,673 105,995 244,133 100,021
市場規模 326,400 343,100 312,400 357,800
ビデオ出荷額/市場規模 76.2% 30.9% 78.1% 28.0%

2006年は、2005年9月から2006年8月である。
2005年は、2004年9月から2005年8月である。


2005年(1月から12月)における比率を求めるために、期間を基準として加重平均を行う。
セル = 76.2%×4/12 + 78.1%×8/12 = 77.5%
レンタル = 30.9%×4/12 +28.0%×8/12 = 28.9%


セル市場の推定に用いた数値(卸売率70%、店頭値引率10%)からビデオ出荷額/セル市場を計算すると77.7%となり、上記の数値とほぼ一致するため妥当性があると思われる。


2005年のレンタル出荷額からレンタル市場規模を求めると次のようになる。
レンタル市場規模 = 22,162 / 28.9% = 76,685

2005年のアニメのビデオグラム市場

まとめると次のようになる。

セル市場 88,997
レンタル市場 76,685
合計 165,682


『アニメビジネスがわかる』におけるアニメのビデオグラム市場(グロス市場)の推定値124,877百万円とは、30%程度ズレが生じている。

アニメのビデオグラム市場(ネット)について

ビデオグラム市場において、レンタルを考慮にいれる場合のネット市場の算定は複雑になる。
セル市場とレンタル市場を切り分けて考えるのだが、レンタル市場が複雑なのだ。
レンタルビジネスでは、レンタル店がビデオグラムを買い切る方法と、レンタル店がビデオソフトを安くで仕入れるかわりにレンタル業禁の一部をロイヤルティとして分配する方法(レベニューシェア)が混在しているからだ。
ツタヤでは、レベニューシェア(ツタヤではPPT(Pay Per Transaction)という名称)の割合が現時点では、洋画で7割超、邦画・アニメで4割程度となっている。*6
このため、ビデオソフト出荷額からだけではレンタルのネット市場を推測できない。


ネット市場=レンタル用ビデオ販売額×製作者収益率+レンタル市場規模×レンタルにおけるアニメのシェア×アニメのうちレベニューシェア利用率×ロイヤリティ率
といった形になるのだろうか??

*1:丸付き数字を括弧付き数字に変えてある

*2:http://www.jva-net.or.jp/index.html

*3:http://www.jva-net.or.jp/report/annual_2006.pdf

*4:http://www.jva-net.or.jp/report/annual_2005.pdf

*5:JVA Report No.122の7ページ(http://www.jva-net.or.jp/bulletin/index.html

*6:CCCの2008年3月期第一四半期決算説明会の資料http://www.ccc.co.jp/ir/ir2/pdf/2008_01q_02.pdf