IT業界にも適用される工事進行基準の話に横から茶々を入れてみる

工事進行基準、待ったなし。 - novtan別館
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ロゴスを舐めてっから、モノを理解できねえんだよ!! - 消毒しましょ!

わかってるひとがわかってる人だけに通じる言い方をしても伝わりにくいんじゃないんだろうか・・・。と思った。


ということで、そもそも的な話を書いてみる。(分かり易いかどうかは不明)
工事進行基準がなんなのかというのと、売上と現金回収が違うという話。
だいぶ長くなった・・・。

工事進行基準とは何か?

工事進行基準とは、受注工事(受注システム制作)の売上を「いつ計上するか」という基準だ。


売上を計上できるのは、その利益(損失の場合もあるけど)が実現したときというのが原則だ。
実現したときはいつなのかといえば、通常は、商品を引き渡したときだ。
商品を仕入れただけでは、利益は実現しない。買い手に商品を引き渡してはじめて現金を受け取る権利が発生し利益が実現するというもの。これが引渡基準といわれる。


工事進行基準では、その売上を工事の進捗度合いに応じて計上するとしている。
つまり開発途中でも、開発した部分についての利益は実現しているでしょ、という考え方だ。

現状の引渡基準

現状は、売上計上基準として引渡基準が主に用いられている。
つまり、システムを完成させて納品して、相手から、問題のないシステムを受け取りましたという受領書を受け取った時点で売上を計上しているわけだ。

引渡基準の問題点

しかし、開発期間が2年3年にも及ぶ場合、その売上計上基準では事業の実態を把握できないことになる。
システム開発という同じ業務を行っているのに、開発終了・引渡を行った年しか利益が計上されないのだ。


単純な例として、2年間の開発期間のプロジェクトを1件だけ行い、完了したら開発期間2年のプロジェクトを新たに受注するという会社を考えてみる。
毎回のプロジェクトの受注金額は5,000万円で、制作費は4,000万円としよう。
そして、毎年2,000万円かけてシステム開発を行う。


1年目、期首に工事を受注、開発を開始。
工事が完成していないため損益計算書には、売上も売上原価も計上されない。利益もゼロだ。
(なお、2,000万円かけて途中まで行った開発は棚卸資産として貸借対照表に計上される)
2年目、工事が期末に完成する。
工事が完成し引渡も完了したため、損益計算書には売上5,000万円、売上原価4,000万円が計上される。利益1,000万円。
3年目、期首に二つめの工事を受注、開発をはじめる。
工事が完成していないため1年目と同じく損益計算書には、売上も売上原価も計上されない。利益もゼロ。
4年目、工事が期末に完成する。
工事が完成し引渡も完了したため、損益計算書には売上5,000万円、売上原価4,000万円が計上される。利益1,000万円。


こんなかんじで、2年に1度しか売上が計上されないことになってしまう。
会社は1年ごとに休業したりなどせず、毎年同じようにがんばって活動しているのに、売上・利益は2年に一度しか計上されない。


それはおかしな話だ。ということで出てきたのが、工事進行基準

工事進行基準

工事進行基準では、売上(利益)が生じるのはシステムが完成し顧客に引き渡した時点ではなくて、システム開発をするに従って徐々に生じているという考え方をする。
そうすれば、引渡基準で生じたような、同じシステム開発活動をしてるのに、完成したかどうかで利益が変わるという不合理なことが起きないことになる。


じゃあ、どうやって売上を計上するのかと言えば、開発全体の中でどれだけ開発が進んだかに応じて計上することになっている。
今年度は40%開発が進んだ、ということであれば受注金額の40%が売上に計上できる。
じゃあ、その進捗度合いをどうやって調べるのかといえば、単純に開発にかかったお金で計算しましょうということになる。
全体で4000万円かかる開発で、今年800万円の費用をかけたのならば、進捗度合いは20%という風に。


この進捗度合いを調べるためには、システム開発全体でそもそもどれだけ原価がかかる予定なのかをはっきりさせておく必要がある。
それが、IT系の企業はできてなさ過ぎる!ってので大問題になっているのだと思う。いや、まあ。そもそもどのプロジェクトにどれだけお金をかけたか&どこまで進捗しているのか(進んでいるのか遅れているのか)すら把握できていないって可能性もあるけど。


ちなみに、こんな考え方ができるのは、普通の製造業などとは違って、作ったら確実に売れることがわかっていて、かつ販売金額も確定しているという特殊な事情があるからだ。(つまり、開発開始時(あるいは少なくともその期の決算時まで)に受注金額をはっきりさせることも必要となる)


初めのリンク先の記事に疑問が載っていたんだけど、何らかの問題が発生して完成までの見積原価に見直しが必要とかってことになれば、見直した上で進捗度合いを計算することになる。また、その時点で赤字になることがわかれば予想損失を、損失引当金として計上したりする。
完成品に欠陥があったりして補償をしなければならないなどの可能性が高い(&実績から金額がだいたいわかる)のであれば、完成後の補償を前もって見積もって引当金計上するとかってことにもなる。工事補償引当金とかかな。


売上と、その回収

売上計上と、現金回収が違うよという話。
長期工事の場合、そこが入り組んだ形になることがあって、簿記の勉強してる人でも意味不明ってことがある。
(未成工事支出金とか未成工事受入金とか完成工事未収入金とか工事未払金とかが入り乱れるのだ)


IT系の場合、長期開発を期間などでフェーズに分けて、それごとに納品・受領書の受取、その後現金回収(分割検収)というかたちになっているので、売上計上と現金回収を同一視しがちなのだけれど。
そうじゃないよ、ということを理解することが大切。

引渡基準での売上とその回収

通常の企業は、売上計上基準として、引渡基準を用いる。


たとえば、次のような場合を考えてみる。
2月に商品500円を仕入れる。
3月に2月に仕入れた商品を600円で売る。
4月に、2月に仕入れた商品の代金500円を支払う。
5月に、3月に売り上げた商品の代金600円を受け取る。


売上が計上できるのはいつかといえば、3月の商品を売った(引き渡した)ときだ。
その時、同時に商品代金を現金で受け取る権利も生じるので、売上600円と同時に売掛金(売上債権)600円が生じる。
3月末の決算では、その売上600円が損益計算書に計上され、売掛金600円は貸借対照表に計上される。


そして、翌期の5月に代金600円を受け取るので、代金を受け取る権利である売掛金が消滅し、同時に現金が貸借対照表に計上される。

工事進行基準での売上とその回収

ここで、工事進行基準の場合を考えてみる。
これがかなりめんどくさいのだ。


売上計上と、現金回収が別物であるということを頭に入れながら考えることが必要。


例として次のような場合を考えてみる。
2年の開発期間のプロジェクト、受注金額5,000万円。その受取方法は着手時に1,000万円。その後半年ごとに回500万円ずつ3回。完成・引渡後に残りの2,500万円を一括で受け取るという契約内容。
2008年4月、5,000万円の工事を受注。開発開始。着手金1,000万円を受け取る。
2008年9月、契約に従い500万円を受け取る。
2009年3月、契約に従い500万円を受け取る。2008年3月期の開発費用は2000万円。
2009年9月、契約に従い500万円を受け取る。
2010年3月、完成。引渡完了。2009年3月期の開発費用は2,000万円。
2010年4月、受注金額の残額2,500万円を受け取る。


それぞれの会計処理を考えてみる。

  • 2008年4月。

着手金の受取は現金回収の問題。そして、まだ売上計上すべきものは何もないため前受金の受取りとなる。
仕訳は、現金(資産)1,000万円/前受金(負債)1,000万円

  • 2008年9月。

500万円の受取は現金回収。売上に計上すべきものはない(売上計上は決算時にまとめて考えるので、ここでは売上は生じていないものとする)
仕訳は、現金(資産)500万円/前受金(負債)500万円

  • 2009年3月

500万円の受取は現金回収。
仕訳は、現金(資産)500万円/前受金(負債)500万円
次に売上計上について。今年度は、2,000万円をかけて開発したため、進捗度は50%。したがって売上も受注金額の50%、2,500万円計上する。同時に、現金を回収する権利(売掛金)が2,500万円生じる。
仕訳は、売掛金(資産)2,500万円/売上(収益)2,500万円
なお、売掛金が2,500万円発生したが、すでに2,000万円は前受金として現金で回収済みなので、前受金と売掛金を相殺する。
仕訳は、前受金(負債消滅)2,000万円/売掛金(資産消滅)2,000万円

  • 2009年9月

500万円の受取は現金回収。2009年3月末に残っていた売掛金500万円分の回収に該当する。
仕訳は、現金(資産)500万円/売掛金(資産消滅)500万円

  • 20010年3月

売上計上について。システムを引渡したため、3月に残りの50%(=100−前期末進捗度50%)、2,500万円を売上計上する。同時に売上分の現金を受け取る権利(売掛金)が生ずる。
仕訳は、売掛金(資産)2,500万円/売上(収益)2,500万円
現金回収はない。

  • 2010年4月

現金回収。前期末に生じた売掛金全額を回収。
仕訳は、現金(資産)2,500万円/売掛金(資産消滅)2,500万円


売上を計上する時期というのは、決算時に進捗度を見積もって当期分というのを計算する時と、システムが完成し引き渡されたときの2種類しかない。
それは、現金をいつ受け取ったかというのとは無関係ということだ。