消費者と制作者の間に信頼関係が築けるか?

ここ数日、ニコニコ動画に違法にアップロードされるアニメについて、アニメ製作プロデューサが憤慨しているという話題で盛り上がっている。


それに関連して。制作者の立場から意見を二つ見つけた。
制作者から直接こういった意見を聞けることはほとんどないため、貴重な意見だと思う。

映画監督 山本清史氏の考え

山本清史氏の代表作は映画『水霊 ミズチ』。ホラー映画の若手監督として評価が高いようだ。


http://blog.goo.ne.jp/yamamotokiyoshi/e/c5a0aff531d61d9da8b04425d75ac7ad

作家として世の中に主張するのも大切ですが、最も大事なことは、買いたいと思えるコンテンツを制作することではないですか?
ネットで観ればいいや、と思えるような作品なら、ネットに流通するのは当たり前でしょう。
ぼくは常々、100年後にも残るような映画を、と訴えていますが、要するにそういうことです。
「これはちゃんと観ときたいな」と思えれば、レンタルなりセルなりに手を出してくれると信じるしかないと思いますが、どうでしょうか。


制作者(not製作者)からすれば、自分たちの作品が、様々な人の目に触れ少しでも感動を与えることが一番で、違法アップロードやその視聴を非難する理由はないという考えのようだ。
良い作品を作れば、それに対して消費者が正当な対価を支払ってくれると信じるしかないとのこと。


逆に、製作者の立場からすれば、利益を得ることが目的であって、その手段としてお金を払う消費者に感動を与えるという立場になるのだろう。
リンク先では、アニメプロデューサがクリエイターだと誤解されているようで、DVD特典映像のアップロードに憤るのは売上を優先する立場であり、制作者としてはおかしいんじゃないかと述べているが、そのアニメプロデューサは製作プロデューサななので、少し誤解があるように思った。
製作者の立場からすれば、お金を得るために作ったDVDの特典映像を、タダで勝手に見られてはかなわないと憤慨するのは当然だろう。

アニメ監督ワタナベシンイチさんの考え

一方、アニメ監督のワタナベシンイチさん(現在、『ハヤテのごとく』で演出を担当)はアメリカのアニメイベントで以下のような話をしている。

ULTIMO SPALPEEN: アニメファンサブに対するワタナベシンイチ監督のコメント at Oni-Con(テキサス州ヒューストン)
activeanime.com -&nbspactiveanime リソースおよび情報
からの情報。

  • 自分の作品をダウンロードするファンについてどう思うか

お金を払わずにダウンロードして僕の作品を見て下さってる皆様、ありがとうございます。
でも、DVD買ってくれないと僕生活できなくなります。僕が生活できなくなると、アニメを作ることができなくなってしまいます。みんなのために一生懸命アニメをつくりたいので、ダウンロードとか違法なことはしないようご協力おねがいします。
ダウンロードすることの気持ちはわかります。僕でもタダか有料かといわれたら、タダを選ぶでしょう。でも、僕たちが作ったものを無断で使われるというのは本当に屈辱です。
コピーは偽物です。ホンモノのほうが素晴らしいはずです。

  • 違法ダウンロードをやめさせる方法は?

システム上は不可能だと思います。僕たちクリエイターとしては、コピーをしても無駄なくらいのクオリティのものを作っていくしかない。
作品やそれを作ったクリエイターたちを愛してくれる人ならば、違法なものに手を出すことはないと思います。正当に買ったお金は僕たちクリエイターへのお布施になります。それによって、僕たちはまた新たな力を蓄え、あらたな喜びを与えていけるのです。


こちらは、違法ダウンロードなどはしないで欲しいという意見だ。
違法ダウンロードばかりされると自分たちが暮らしていけず新たな作品が作れない。
正当な対価を支払って、自分たちが継続的にアニメを作れるように協力して欲しいということだ。

消費者を「信じる」という2人の共通点

表向き、2人の違法ダウンロード・違法アップロード作品の視聴については立場が全く逆だ。
一方は、違法な方法であっても見てもらえるのが一番であり、非難すべき理由はない。一方はクリエイターが暮らしていくためにも、違法なことはやめて欲しい。
ただ、作品をどんな形であれ見てもらえるのは嬉しいということは共通している。


そして興味深いのは、2人ともが、クリエイターがすべきこととして「消費者が正当な方法で買いたいと思えるようなコンテンツをつくること」と述べていることだ。


そこにあるのは視聴者への信頼だろう。山本氏が「信じる」という言葉を使い、ワタナベ氏は「愛してくれる人ならば、違法なものに手を出すことはないと思います」と言う。
違法コピーで手に入れたものと正規の方法で手に入れたものも、どちらもデータとしては同じものだけれども、ファンは、その価値は違う、正規の方法で手に入れたもののほうが素晴らしいと思ってくれるということを信じて作品を制作するという意見を持っている。


今まさに突入しようとしている、見ようと思えば無料で見られるし保存できるという時代は、私を含めた映画やアニメの消費者が、彼らクリエイターたちの信頼に答えられるかどうかを試される時代でもあるのではないだろうか?