完成したテレビゲームの信託による資金調達の意味


JDC信託が、完成したテレビゲームの著作権の信託により、流動化するというプレス・リリースが出た。
その内容は、以下の引用記事に詳しく書いてある。
このテレビゲーム著作権の流動化によって、制作会社にどんな利点が生まれるのかを考えてみた。

引用記事

http://animeanime.jp/biz/archives/2008/07/jdc_gae6.html

 ジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JDC信託)は、ゲームソフト会社グローバル・A・エンタテインメント(GAE)の保有ゲームソフト6作品の著作権を流動化し、信託設定を行う。ゲーム著作権を流動化することで、GAEの資金調達の拡大を目指す。

 今回著作権を流動化するのは、既に発売されている「コスメちっく☆パラダイス〜メイクのキセキ〜」、「世界はあたしでまわってる」、「トレインマスター」、「ものしり江戸名人」、「ものしり幕末王」(以上ニンテンドーDS向け)「零式艦上戦闘機 弐」(PSP向け)、それに7月10日に発売予定のニンテンドーDS向けソフト「コスメちっく☆パラダイス〜メイクのキセキ〜」である。

 6作品の評価額はおよそ1億円、GAEが著作権をJDC信託に信託設定する。信託受益権は利益が優先的に配分される優先受益権95%とそうでない5%の劣後受益権に分割される。
 JDC信託が優先受益権を一般事業会社や機関投資家に販売し、GAEはこれにより資金調達を行う。GAEは劣後受益権を保持する。ゲームから得られた販売収益は、優先受益者に優先受益権120%まで優先的に分配される。その後は劣後受益者であるGAEに分配され、収益が拡大すればGAEの収益取り分も拡大する。信託期間は約3年間となる。 

 映画やアニメ、ゲームは開発当初の投資資金が大きい。しかし、一方で資金の回収は作品リリース後、販売が一巡してからになるのが一般的である。このため初期投資の回収に時間がかかる。
 これに対して大手制作会社では、手元流動資金を多めに残し自己資金で製作投資を行うか、自社の信用で銀行借入を行うなどで対応している。

ゲーム制作には多額の資金が必要

一般に、テレビゲームは、映画やアニメと同じように制作期間が長く、また全てが完成してからでないと販売ができないため、制作段階で先に多くの現金の支払いが必要となる。


システム制作会社などの場合、ある会社にシステムを導入するときには、まずその会社と契約を行い、何回かに分けて入金をしてもらいながらシステムを制作すればよい。そのため、1億円の制作費をかけて1億2000万円で売るといった場合に、手許に必要なのは初めの3000万円くらいでよく、その3000万円を使い切る前に一部を先に入金をしてもらえばよい。


一方、1億円でテレビゲームを作り1億2000万円で販売しようと考えた場合には、1億円全額を一旦支払い、その後1億2千万円の入金を待つ必要があり、このビジネスを実行するためには1億円の資金が必要となる。
また、販売開始から実際に入金があるまでの期間(2,3ヶ月くらいだろうか??)についても、最低限の会社維持費が必要となる。

完成したゲームの著作権流動化の効果

テレビゲームの制作ビジネスは、その事業規模に比べて多額の資金が必要となる。
今回の、完成ゲームの著作権流動化によって、ゲーム完成直後に現金を手に入れることができるため、販売後の会社の維持費やゲーム制作の最終段階の費用などについては資金手当ができることになる。
ただし、制作時に必要な多額の資金を調達することができるわけではなく、限定的な効果に止まる。


完成したゲームの著作権を信託設定し流動化することの意味は、大きく2つあるだろう。
一つは、キャッシュ・フローの固定。
一つは、現金の早期回収。


(大ヒットの場合は追加してお金が入ってくるが)キャッシュ・フローが固定されることで、次のゲーム制作の予算がつくりやすくなる、あるいは早期に次の計画を練ることができるようになる。


現金の早期回収については、前述のように、早期回収によって1作品を制作するのに必要な手元資金がいくらか少なくて済むようになるだろう。先ほどの1億円の例で言えば、現金回収までに必要な資金が1億1000万円だったのが、1億円ぴったりで済むようになる。
また、手元資金がギリギリの場合には、新作ゲーム販売による収入があるまで次のゲーム制作に着手できないといった状況になる。そこで著作権の流動化により現金回収を1,2ヶ月早めることができれば、ゲーム制作のサイクルが早くなるという効果が生まれる。つまり、6ヶ月でゲームを制作することを考えると、その2ヶ月後に現金回収しその時点から新作ゲームの制作を開始するという場合、8ヶ月間隔(6ヶ月制作+2ヶ月待ちの繰り返し)でゲームを制作することになる。それが、完成と同時に現金を回収できるということになれば、6ヶ月間隔でゲームを制作でき、1.3倍くらい多くのゲームを制作できるようになる。


信用力のある企業であれば、手元資金が足りないために一時的に銀行から当座借越や短期借入で資金調達ができる。
しかし、中小のゲーム会社は総じて信用力が低いため、そういった銀行からの借入ができない。
今回の、完成したゲームの著作権流動化による資金調達は、当座借越や短期借入などの機動的な資金調達を代替するための方法といえよう。

制作前・制作中のゲームの流動化は可能か?

制作段階では、ゲームは完成していないため、その著作権も存在しないことになる。
したがって、製作段階のゲームに投資をしようという場合は、映画・アニメと同様、ヒットするかどうかという興行リスクに加えて、そもそもその作品がちゃんと完成するのかという興行リスクを負うことになる。
実際にゲーム制作にかかわっていない人からすれば、そもそも完成するかどうかすらわからない状況で資金を出すことなどほとんど不可能だろう。


ここらへんは、映画やアニメの製作における資金調達と同様の議論が待っていることになる。
製作事業やその周辺事業に直接的に参加しない人から資金を調達しようとすれば、その作品が予算内に一定以上の質で完成することが保証されなければならない。つまりは、完成保証保険が必要となっていくものと思われる。