アメリカでのアニメ寄付金制ネット配信の試み

またまたGDHのプレスリリースに関するニュースについて。
前々回の日本での放送日ネット配信、前回の放送日海外同時配信に続いて、今度は海外での寄付金制度の導入というニュース。

寄付金制の利点

ネット配信において、一律いくらと価格を設定するのではなく、消費者が感じたままに金額を設定してもらうことで、ある意味与えた感動を収益に変換するという方法となる。


今までは、高価格DVDを販売することで、その作品に大きな価値を感じた人だけを対象としたビジネスが展開されていた。
寄付金制が導入されることで、理想的には、コアなファンからの収益はそのままに、加えて今までお金を払わなかった(払えなかった)ファンからも浅く広く収益を上げるという効果が期待できることになる。

寄付金制がアメリカで始まった理由(Paypalの普及)

寄付金制を導入しようという話は、おそらく日本でもいろいろなところで議論されたものと思われる。私も考えて調べてみたことがあるし、いくつかのblogなどでも同様の考えを提案した記事があったように思う。
しかしながら、日本での寄付金制の導入はかなり困難が伴う。それは、小額決済サービスが十分に普及していないためだ。


寄付金制が文化として消費者に根付くかどうかという話の前に、前提条件としてどうやってお金をやり取りするかというのが問題となる。
10円100円単位の小額決済となるために、そのお金のやり取りをクレジットカードや銀行振込などを使うと、取引手数料が非常に高くつく。銀行振込では10円送るのに手数料が400円などという本末転倒なことに終わりかねないし、クレジットカードでも換算すると数十パーセントの手数料率になってしまう。また、各コンテンツに対して、いちいちカードや口座番号を入力するなどの煩雑さも、小額決済には向かない。
この2点(取引コストの低率化、取引の簡便性)をクリアするサービスが日本では普及していないために寄付金制の導入が困難となっている。


それに対して、アメリカではPaypalというネット上での小額決済サービスが普及している。
取引コストが非常に低く、10円単位(というかドルだと思うけど)での送金が可能なサービスであり、メールアドレスでログインして金額を決定するだけといった形で手軽に送金を行うことができる。
実際、ファンサブサイトなどを見ると、常に寄付(Donation)を募集しており、(実際どれだけの収益を上げ得るのかは知らないが)一般的なものと思われる。


小額決済サービスの普及という下地が整っているがために、日本ではなくアメリカにおいて寄付金制導入の試みがなされたといえるだろう。

寄付金制は普及できるのか

消費者自身が価格を決められるということは、ゼロ円と決めてお金を払わないということが最も合理的な選択なわけで、普通に考えれば、誰もお金なんて払わないという結果に終わることになる。


キーとなるのは、消費者の中に支払える範囲内で対価を支払うという雰囲気を醸成できるかどうかだろう。
いままでファンサブについて消費者は、他にアニメを見る方法がないということを盾に取ってその行為を正当化してきたが、著作権者が配信を(それも英語字幕までつけて)行うことでその正当性は失われる。
そして、今までファンサブで字幕を作っていた人・アップロードした人への感謝として行われていた寄付金は、自動的に著作権者へ回るはずということになる。



特にファンサブは善意で翻訳を行っていたために、感謝の印としての寄付という感情をベースにした経済行為が生じることになるが、権利者が消費者にコンテンツを提供することは当然だという感情が働けば、誰もお金を払わなくなる。
そのように利便性を提供しても消費者にはお金を払うつもりがないということになれば、収益の上がらないネット上での作品提供など製作者が行う必要はないということになる。特に、音楽とは違ってライブなどの生イベントによる収益が期待しづらく、ファンサブにより海外でのDVD売上が減少していると考えざるを得ないアニメでは、ネット配信を控えるという選択肢がより有力になっていくだろう。


寄付金制は、アニメや映画に先駆けてインターネット革命ともいうべき激動をむかえた音楽でさえも、ほとんど試みられていない。
去年秋にRadioheadが新作アルバムをmp3で先行リリースし、その価格は消費者が好きに決めてよいという手法をとった*1ことが大きな話題となったが、結果的にどれだけの収益をあげられたのかなどは公表されておらず、成功していたと判断されたとしても有名なバンドであるといった特殊要素が存在することもあり、今後普及していくのかも不透明なままだ。


消費者の「利便性を高めよ」という声に製作者が応えたはじめたことで、今度は消費者が「適正な対価を払ってほしい」という製作者の声に応えていく番が来たといえよう。
製作者ではなく、消費者が試される状況になってきた。

GDHのプレス・リリース

http://www.gdh.co.jp/news/20080331.html

GDH、インターネット配信において寄付金制を導入
新たな収益モデルの可能性を検証

2008.03.31
株式会社GDH(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:石川真一郎、証券コード東証マザーズ3755、以下GDH)はこの度、グループ会社株式会社ゴンゾ(本社:東京都練馬区代表取締役社長:藤田純二、以下GONZO)が制作する新作アニメーションのインターネット配信において、寄付金制(以下、ドネーション)を導入することが決定したことを発表いたします。


GDHでは今春放送開始予定のGONZO新作アニメーション「ドルアーガの塔〜the Aegis of URUK〜」と「ブラスレイター」を、インターネットにより海外同日配信することが決定しておりますが(2008年3月21日発表)、動画配信サイトCrunchyroll(クランチロール)における、高画質ファイルダウンロードにおいてドネーションを導入いたします。これは高画質な映像の視聴を希望するユーザーが、それぞれのエピソードに対して相応しいと考える対価を任意に設定し、その金額を支払うことによって、ファイルをダウンロードできるというものです。ユーザーは視聴するアニメーション作品に対して、その価値を任意の寄付金という手段で示すことが可能となります。気に入った作品にはより多くの寄付が集まることによって、ユーザーの意見を取り入れた形で続編の制作等も行えるようになり、まさにユーザーの声によって作品を進化させることを可能とする画期的な取り組みです。


Crunchyrollはコミュニティ型動画配信サイトにて、広告収入型ストリーミング配信を行うことで、ユーザーに違法ダウンロードに代わる閲覧手段を提供すると同時に、インターネット配信によりコンテンツ提供者がマーケットから利益を得られるビジネスモデルの実現を目指しています。GDHはこのようなサービスを推進するCrunchyrollの動画配信サイトにおいて、コンテンツ企業として初めて動画コンテンツへのドネーションを採用し、インターネット配信による新たな収益モデルの可能性を検証するとともに、日本のコンテンツビジネスが世界のアニメファンによって更に育成されることを期待しています。


GDHはこれまでも、アニメーションビジネスに多様なスキームを取り入れてまいりましたが、ドネーションという新たな手法を採用することで、コンテンツビジネスの新たな可能性を探り、インターネット配信によるGONZO作品の更なるグローバル展開を推進してまいります。


Crunchyrollについて:
Crunchyrollは2006年9月に設立された、アジア圏のアニメ/テレビドラマ/漫画/音楽/ゲーム/車に関する最大手の動画共有サイトです。パートナー各社はCrunchyrollの配信チャネルを通じて、所有するコンテンツを世界各国の390万人を超える人々に届け、そこから収益を上げることが可能です。Crunchyrollはカリフォルニア州サンフランシスコに本社をおき、ベンチャーキャピタルVenrockの出資を受けております。
公式ウェブサイト:http://www.crunchyroll.com


株式会社GDHについて:
GDHは、グループ会社が制作するファン向けアニメーションブランドであるGONZOを中心として、アニメーションビジネスを主体的に手がけている日本の事業会社で、2000年2月に設立されました。グループ企業の経営戦略全般を統括し、グローバルな作品やコンテンツへの投資、作品ライセンス管理、海外への番販等を行っており、世界的に評価が高い日本のアニメ文化を積極的に国内外で展開している、コンテンツビジネスにおけるリーディング企業です。詳細につきましては、www.gdh.co.jpをご覧ください。またGONZO作品については以下サイトをご参照ください。http://www.gonzo.co.jp
GDHグループは、株式会社GDHをはじめとし、株式会社ゴンゾロッソ、株式会社ゴンゾ、株式会社フューチャービジョンミュージック、株式会社ゴンジーノ、株式会社GDHキャピタル、株式会社GK Entertainmentなどがあります。


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