再販制度に守られているのは作家?

前回のエントリ(出版社は販売リスクを負うメーカーだ - Obra de Sobra よしなしごと)のつづき。
再販制度で利益を得るのは作家なのでは?と思った。

印税の支払われ方

印税は、本を売るときに、その本を書いた作家に支払われる使用料だ。
だいたい定価の10%くらいが作家の取り分となるのだが、実売数ではなく、印刷した部数に比例して発生する。


実売数に応じて支払う形式(売上印税)もあるようだが、事務処理が煩雑などの理由もあり(実売数の把握+毎月の支払など)、印刷部数による印税(印刷印税)がほとんどらしい。


印税は本の実売によって発生するものだと思っていたのだが、印刷によって発生すると聞いて出版社は結構際どい商売なのだなあと思った。

流通の非効率性

前回のエントリで述べたように、再販制度では出版社が販売リスクを負うため、消費者から遠い位置にいる出版社が販売数の予測を立てて、本を印刷することになる。
その結果、返品率が平均40%程度と、通常の流通に比べてロスが非常に大きく非効率だ。
また、再販制度により定価販売が義務づけられているために、売れ残った本を安売りして損失を(少しでも)穴埋めするという行為もできない。

そして、印税が印刷部数に対して支払われるということは、その40%の返品による損失は出版物の印刷費用+印税と印税が加わることでかなり規模がふくらむになるといえよう。

流通の非効率性による消費者の不利益は、誰の利益?

このような流通の非効率でも耐えられるような構造を作り出すために、おそらく出版物の価格が高めに設定され、消費者が不利益を被っているのだろう。
消費者が再販制度の廃止を要求すべきという主張は、このような考え方からも肯定できる。


では、この流通の非効率性で得をするのは誰か。
本の印刷時に収益を得る者、つまり印税を受けとる作家ではなかろうか?
(印刷・製本業者も受益者といえるかも)


非効率的な流通によって実売数が同じでも効率的な流通が行われる場合に比べて発行部数が多くなり、かつ作家には発行部数に応じて印税が入るため、作家にとっては流通が非効率的であることのほうが望ましいという結論になる。
再販制度+発行印税という組み合わせで一番利益を得るのは作家と言うことができよう。

発行印税から売上印税へ

発行印税が多く用いられているのは、実売数の把握から作家への印税分配までの事務処理が煩雑で費用が大きいというのが理由だった。
しかし、出版不況のなかでPOSシステムなどの導入によって流通の効率化が図られている昨今では、実売数の把握はそれほど困難ではなく、またITシステムの導入等により事務処理も多くを自動化できるようになるだろう。
その結果、発行印税から売上印税への移行が起きる(あるいは起きつつある)のではなかろうか。


そうすると、再販制度+発行印税が、再販制度+売上印税とかわり、出版業界の構造によって得ていた作家の利益は消えることになる。
作家にとっては、売上印税へと移行した場合には、再販制度を撤廃し自由な価格競争により売上最大化を図るほうが有益となっていくようにも考えられる。

参考:発行印税による定価上昇額のシミュレーション

一般的な本の原価率はだいたい35%くらい(印税含む)となっているようだ。
10%が印税なのでその他の原価が25%程度。印税を上乗せすると、原価が1.5倍くらいにふくらむということになる。


1万部印刷、定価1500円、返品率40%の本を考える。
返品率40%なので、実売数は6,000部。
売上は6,000部×1,500円=9,000,000円
原価は10,000部×1,500円×25%=3,750,000円
印税は10,000部×1,500円×10%=1,500,000円
粗利は、売上-(原価+印税)=3,750,000円となる。


印税が売上に応じたものだった場合に、1万部・返品率40%で粗利が3,750,000円となるような定価を考えてみる。
まず、粗利が3,750,000円
原価は上と同様の3,750,000円
印税は売上に応じて、6,000部×1,500円×10%=900,000円
粗利達成のために必要な売上は、粗利+原価+印税=8,400,000円
定価は、8,400,000円÷6,000部=1,400円


1,500円のうちの100円分は、発行印税による価格の上乗せだということができる。

参考URL

本の原価率が以下のページに載っていた。
実習生の日誌●出版流通の基礎知識のまとめ(宮本)[スタジオ・ポット/ポット出版]
http://www.linkclub.or.jp/~unity01/skill/skil-06.html
http://www.hon-no-gakkou.com/content/gyoukai/kihon/5_14.html
http://www.amushobo.com/zakki/2002/zakki200204.html
それぞれ、だいたい同じ原価率(40%以下が望ましい、35-38%、35%で簡単な計算)となっていることから原価率(印税含む)35%は信憑性が高いだろう。

参考:価格を下げての販売について

http://book.asahi.com/news/TKY200710070036.html
【魚拓】asahi.com:「売れ残った本」半額に 出版社17社、ネットで本格販売 - 出版ニュース - BOOK

「売れ残った本」半額に 出版社17社、ネットで本格販売

2007年10月07日

 再販契約で定価販売を義務づける出版業界で、「売れ残った本」をインターネット上で値引き販売しようという試みが、12日から本格的に始まる。これまでの絶版本や期間限定の割引販売から一歩進め、小学館集英社講談社文芸春秋などの大手出版社が、絶版の一歩手前の「在庫僅少(きんしょう)本」を提供し、半額で通年販売する。出版不況で書籍の4割が読者の手に届かず返品されるなか、価格を拘束しない「第2の市場」を創設して本の復活をはかるのが狙いだ。


というように、値引販売制度がスタートしているようだ。