出版社は販売リスクを負うメーカーだ

再販売価格維持制度が、再三問題になっては業界のロビー活動によって立ち消えするということを繰り返してきた。
基本的には、再販売価格維持制度は消費者の敵であり、時代にそぐわず改善(というか撤廃)すべき制度であるという論調が多数を占める。

しかし、少し考えてみると再販売価格維持制度(以下、再販制度)があるからといって、出版社が利益を得るとは限らないのかなと思った次第。

販売の流れ

メーカーから卸売り業者に販売され、卸売業者は小売店にその商品を販売し、小売店は消費者に販売するという形で、商品が届けられる。


通常の商品販売では、メーカーは卸売業者に販売した時点で売上が確定し収益計上ができる。
卸売業者は、小売店に販売した時点で売上が確定する。小売店は、消費者に販売した時点で売上が確定する。

販売リスク(在庫リスク)の分担

メーカーや流通業者はそれぞれが販売リスク(在庫リスク)を背負う。
つまり、メーカーならば商品を生産しても、そのすべてが卸売業者に販売できないかもしれないというリスクである。流通業者(問屋・小売店)では、仕入れた商品が、得意先・消費者に売れるかどうかわからないというリスクである。


テレビゲームソフトや映画・アニメDVDなどは再販制度の対象とならないため、以上の議論がそのまま適用される。ゲームメーカーやDVD販売業者は卸売業者に商品を販売した時点で収益が確定し、そして、流通業者が在庫リスクを背負いつつ消費者に販売することになる。
流通業者にとっては、商品の販売数も大事だが、その在庫消化率が重要となる。ある商品がたとえばミリオンセラーとなったとしても、100万個仕入れたうちの100万個が売れた(消化率100%)のか、200万個仕入れたうちの100万本が売れた(消化率50%)のかによって利益が大きく異なるためだ。後者の場合は赤字になることも十分考えられる。
テレビゲーム関連のブログ*1などで、ゲームの販売数が何万本かという数字だけでなく、在庫消化率が重要視されるのは、このためだろう。


メーカーにおける生産数と小売店における消費者への販売数の差は最終的に損失となるわけだが、その損失をメーカー・卸売・小売が分担して背負うという構造になっているといえる。

再販制度と在庫リスクを背負う出版社

本(音楽CDなども)は、再販制度によって消費者に対して確実に定価で販売される。
その一方で、出版社が取次に販売し、書店へと出回った書籍が売れずに在庫として残った場合、出版社はその返品をすべて受け付けなければならないという義務を負う。
言い換えれば、書店(取次も)は、出版社の売る本を受託販売するだけであるということだ。


このように再販制度には返品条件付売買が付随するため、出版社(=メーカー)が書籍が最終的に消費者に販売されるかどうかの販売リスクを全て背負い、流通・小売は販売リスクを負わないことになる。
書籍の返品率は40%くらいだと言われるが、その全てを抱え込んだ上で(返品された商品が再び出荷される可能性は非常に低いため、取次に返品されてきた時点で裁断処分されたりするようだ)利益が出るようにしなければならない。


他業種のメーカーのように卸売業者に販売したらすべて終わりというわけにはいかず、また、出版者自身は小売店とは違って消費者の動向について生の情報が得られない中でビジネスを展開しなければならない、ということで結構たいへんなように思われる。


じゃあ、再販制度で利益を得るのはだれなんだ?
というのを、すでに答えが見えている気はするが、次のエントリで考えてみたい。

追記

返品商品の再出荷の可能性が非常に低いという記述について、いやいやそんなことないとブクマコメントをもらいました。結構あるってことみたいです。


始めに100出荷したら、40戻ってきておしまいというわけではなく。
50くらい戻ってきて10は再出荷されるとか、そんな感じでしょうか。

*1:忍之閻魔帳など。