アニメータと利益連動型報酬

下記のリンク先で、アニメータにも著作権(この場合は、著作財産権)を持たせるべきだという話があった。
これは、すこし違うかなあと思ったのでいくつか書いてみる。


アニメーターは著作権を主張すべきだ - WebLab.ota

この「アニメーターは著作権を主張しろ」…というのは先のエントリ*1で『企業がアニメーターが持っている著作権を全てとりあげ、利益を食いつぶしているからです』という指摘がされているからなのだが,実際に著作権がとりあげられているかどうかは知らない.アニメーター個人と企業の契約にそう書いてあればそうなのだろう.


しかし実際にアニメーターの著作権が取り上げられているのだとしたら,これは改善すべきだ.


何故なら,アニメーターの著作権が取り上げられているのだとしたら,携わったアニメが人気になり,全国ネットで放送されても,再放送嘆願書がいっぱい来て再放送しても,DVDになっても,数年後ブルーレイ版のDVDボックスみたいな形で再販されても,DVDの売り上げが好調で馬鹿売れしたとしても,アニメーターには一切お金が入ってこないからだ.


原作者やOP主題歌を歌っているアーティストには,印税という形かどうかは知らないが,とにかく何らかの形でお金が入っているのだろう.しかし権利を取り上げられているアニメーターには一銭も入ってこない.


これは明らかにバランスを欠いているし,もし,アニメーターに著作権を取り戻すことができたのなら,今貧困に喘いでいるアニメーターの大半を救えるのではなかろうか?

法律上の著作権

著作権法 第16条
映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。

アニメは映画の著作物に該当し、その著作者は「全体的形成に創作的に寄与した者」で、プロデューサー、監督、演出者、撮影監督、美術監督などが該当する。
当然ながら、アニメータは著作者に該当しない。


映画・テレビ・ゲームなどは総合芸術ともいわれる特殊なコンテンツで、音楽・本(マンガを含む)などとは異なり、多くの人が関わって初めて完成することになる。しかし、その参加スタッフ全員に著作権を付すと資金の回収段階で大きな弊害が起きてしまう。そのため著作者としては「全体的形成に創作的に寄与した者」としている。
スタッフに対してどのような形で報酬を支払うのかは、内部で自由に決定して良いはずだが、通常は時間・仕事単位で固定した報酬が支払われることになる。スタッフにとっても、最終的に損益を確定するまで自分の報酬が定まらないという不安定な状態は望ましくないだろう。

利益享受のためのリスクテイク

今の世の中、資本主義社会なので、基本的にはリスクテイクしたものが利益を享受する権利を得るという考えを前提としなければならない。
製作者側からすれば、損するかもしれないリスクをおかしてお金を出したのだから、売れたときに利益を得るのは当然で、資金を出さない下請け制作会社が利益の配分を受けようなんてもってのほかだということだ。


また、制作会社が製作に参加するのも大変だ。
プロダクションI.G.が製作に参加できるようになったのも、下請製作を10年15年やって実績と評判を積み上げてきたからこそだ。小さい会社が製作参加して売れれば利益インパクトはおおきいが、逆も然り。損失を被った場合には、倒産の危機に陥ることになる。(I.G.がイノセンス以後映画を作れなかったのはそのせいだったはず)


売れたときの利益を享受する権利が欲しいのならば、同時に売れなかったときの損失を負担する義務を負わなければならない。
それは、アニメータに対する支払対価を増やすこととはまた別の話として考えるべきだ。
各アニメータに対する前払の対価を現在よりも低くし、売れたときは後で余分に払う代わりに売れなかったときは支払を行わないという契約になる。それはアニメータとっても承伏できる話ではないだろう。なぜならば、どれだけ自分が頑張ったとしても、他の担当アニメータ、背景、音響、脚本、さらには監督など他のスタッフの仕事の出来次第でアニメが売れるかどうかはおおきく変わってしまい、自分の実力とは全く関係のないところで対価が決まってしまうことになるためだ。
どれだけ良い仕事をしても売れない作品に参加すれば収入が少なく、売れる作品に参加すれば適当に仕事をしても収入が増えることになるというのは、モチベーションの観点からもアニメータにとって良い話ではないだろう。

ボーナス制があり得るのか

リスクテイクに付随する受益権とは別の形で、業績連動型の部分を設けるという可能性がありうるのだろうか。


株式会社の、株主と従業員の関係を一つのモデルとして考えてみたい。
株主は、資金を提供し会社が出した利益からの配当を期待する。会社の事業が失敗すれば配当は得られず、株価も下がり株主は損をする。
一方で、従業員は、一定額の給与・賃金をもらい労働力を会社に提供する。長期的な会社の収益力には反映するが、短期的な損益の変動で給与・賃金が変動することはない。ただし、会社全体の業績や、個々の部署の業績が良かった場合には賞与の部分で手当が成されることもある。


制作会社が制作時の契約として、作品の売上げが特別良かった場合にはボーナスをもらえるという契約を結ぶことができれば、作品が売れたときにその幾ばくかの利益を得ることができる。
そして、その制作会社がアニメータ等のスタッフにボーナスを支払うことができれば、アニメータの労働条件の改善やモチベーションアップにもつながるかもしれない。


ただ、ボーナスを配分するにしても、制作会社が製作委員会と利益連動型の契約をすることがそもそも難しいのではないかと思う。(もしかしたら、すでにそういったこともあるのかもしれないが)
また、制作会社にボーナスが入ったとしても、そこからアニメータへの配分が難しい。アニメータは個人事業者であることが多く制作会社に所属しているとは限らないためそういった後払いが難しいことや、スタッフの役割・重要性に応じて配分ということになれば下っ端アニメータへは雀の涙という可能性も高い気はする。


やはり、アニメータが結束して一律アップの交渉をするのが一番ではなかろうか。
こんな風に考えると、なんとなく、下請制作会社って中間管理職みたいな立場なんだなあと思ってしまう。