アニメの増加と参入障壁

パッケージ販売を中心としたアニメの安定性

1990年代にOVA(オリジナルビデオアニメ)という手法が確立された。1話30分形式のアニメだがテレビ放送は行わず、VHSなどの高価なパッケージを購入してもらうことで収益をあげるという方法だ。テレビ局やおもちゃ会社等の声を排除し、制作者が作りたいものを作ることができると同時に、熱心なファンが高くとも一定数のパッケージを購入してくれたために安定して利益を得られるようになった。
現在のDVD販売を中心とした収益構造はその延長線上にあると言える。

アニメ製作の参入障壁

事業を行う際に必要なのは、ヒト・モノ・カネと言われる。
それぞれを見ながら、アニメ製作への新規参入の難易度をはかってみる。

ヒト

テレビアニメの製作は、企画・製作を行う人たちと、制作を行う人たちが別の組織に存在する。
制作に関しても、制作会社は制作のマネジメントを行い、監督・脚本家・アニメータ等ほとんどの人間が個人事業者として企業には所属せずフリーの立場をとっている。
そのおかげで人材の流動性が高く、各プロジェクトについて柔軟なチーム体制を築くことができる。また、中小(あるいは零細)企業がほとんどの制作会社にとっては、プロジェクト単位で雇えるため人件費の固定費化を防ぐことができ経営が安定する。


その反面、新規参入は容易だ。流動性のある人材プールが存在するため、制作マネジメント能力のある人間が1人いれば、必要な人材を集めアニメの制作を行うことができる。

モノ

テレビアニメの制作の中心は人が絵を描くことであり、原価に占める設備費用等の経費の割合は非常に小さい。
製造業などとは異なり巨大な土地や設備なども必要なく、サンクコストとなる設備投資はほとんど必要ない。
高価な設備が必要なのは撮影などかと思うが(詳しい話は全然わからない)外注という形がとれる。

カネ

2000年頃に「日本のマンガ・アニメはすごい!」という話題が生まれることで、アニメ産業に注目があつまりだした。
そのおかげで、資金提供者・提供量が増加し資金調達が比較的容易になってきている。、元々アニメはつくっていなかったが他のコンテンツを制作していたような企業がアニメ製作に関心を持ち始めたということなどもあると思う。

参入障壁は低い

人材の流動性が高く人を集めやすい。設備投資はほとんど必要ない。産業が注目を集めていることもあり資金を集めやすい。と、3拍子そろっているため、参入障壁が非常に低く、アニメ製作への参入は非常に容易であるといえる。

テレビアニメ製作数の激増

DVD販売を中心とすることで安定的な利益が得られることがわかっており、かつ、参入障壁が低く参入しやすい。そしてアニメ産業に注目が集まりはじめたということで、その利益を求めて多くのアニメ作品が製作されるようになった。
初期こそ、アニメファンの懐に余裕があり、アニメファン自体も増加したため多く作るだけ多くの利益が得られた。その後は、十分な利益を上げていたDVD販売を中心としたアニメにおいて競争が激化し、利益率が非常に低くなってしまった。


競争が激化し利益率が低下した状態で、企業を成長させ利益額を増やそうとすれば作品数を増やすほかなく、さらに製作数が増え利益率がさらに下がるという循環が生じてしまっている。
作品数を減らし質を上げたところで消費者の好みに合わなければ売れないことに変わりはなく、逆に質の低いアニメでも流行に合致すればそこそこ売れて利益が得られるために、作品数を減らそうという意欲も湧かない。


製作数が多すぎるからダメなんだという話をしても、参入が容易である以上、超過利益がゼロとなるくらいまで競争が進むことは避けられない。
競争を止めようとするのであれば、参入障壁と高くするほかないが、モノ・カネについては障壁を高くしようがない。できるとすれば個々の制作会社が正社員として人材を雇い会社内に囲いこむことで人材の流動性を低くすることだろう。そうすれば、新規参入者を減らすことができるかもしれない。
ただ、そのことで制作会社にとっては人件費の固定費化は経営に多大な影響を及ぼし、またプロジェクト単位でのチーム体制を築くことが難しくなるために産業全体の効率が落ちてしまうことになる。


制作会社が個々にアニメータ等を雇った上で、業界内のメンバーが行うプロジェクトだけに人材を派遣するなどとすればいいのかも知れないが、それはそれで談合みたいだし、独占禁止法にひっかかるとか言われそう。そんなことないのかな?