アニメビジネスにおけるテレビ放送の役割

先日、テレビアニメの製作委員会のメンバーが、アニメを放送するためにCMスポンサーとして広告費を広告代理店等に支払っており、それが大きな金額になるということを述べた。
(CM広告費とテレビアニメ制作費 - Obra de Sobra よしなしごと)


その記事にトラックバックをくれた方がおもしろいエントリを書いていた。
DVDが売れない時代のアニメビジネスを考える - WebLab.ota
DVD販売を中心としたビジネスモデルから、インターネット配信によるビジネスへの転換が行われ、アニメのテレビ放送が必要なくなるだろう、という主旨だ。


それに関連して、アニメにおけるテレビ放送がどういう意味と役割を持つかを考えてみた。

アニメのテレビ放送は広告

アニメ(特に深夜放送のもの)はDVD販売を主たる収益源としている。
この場合、テレビ放送はDVD販売のための壮大な広告であると言うことができる。
26話で5万円ほどもする高価なDVDを購入してもらうために、まずその内容を無料で試聴してもらおうとテレビで放送されるというわけだ。テレビ放送のために、製作委員会は1話あたり数千万円を支払うことになるものの、テレビ放送による広告効果は非常に大きく、依存せざるを得ない。(視聴率1%でも100万人を集めるたことになる)
近年はその放送経費を安く済ませるための努力として、ネットワークの中でも全国とは言い難いテレビ東京系列を利用したり、放送を東名阪のみにしたり、製作委員会自らがUHF局(全国ネットワークに属さないローカル局)との交渉を行い放送枠を確保するといった方法が採用されている。そして昨年あたりから、見られない人のためにテレビ放送が終わった時点でネット配信が行われるようになってきた。


とはいえ、昨今のテレビアニメ制作数の激増により、DVDの作品当たりの売上が激減している状況では、テレビ放送のための費用が大きくのしかかっているのは間違いない。

アニメにおけるテレビ放送の意味

テレビ放送は、DVD販売のための広告だ。
高いお金を払ってまでテレビ放送が行われる理由は、何にも増してテレビが持つ集客力にある。


たった1%の視聴率で100万人に対しての広告ができるのだ。
もちろん、DVD購入の可能性があるのはその中の数万人であり、その数万人ならばインターネット配信でも能動的に見に行くと考えることもできるが、テレビ放送でなければその数万人のうちの何割かが内容さえ見ない(=DVD購入の対象として認識しない)ということになる。
おそらく、25分番組のインターネット配信で100万回アクセスというのは相当大きな数字で、よほどの人気コンテンツでないとそれだけの集客はできないだろう。


テレビ放送の集客力は、テレビが視聴者にとって受動的な媒体であることと、手軽さ・アクセスのしやすさによって成りたっている。

受動性

テレビは電源を入れさえすれば、次から次へと新しいコンテンツが放送される。このため、能動的にそのコンテンツを見ようと思わなかった人に対しても、そのコンテンツを見せることができる。そして、たまたま見た人はおもしろいと思えば継続的に視聴することになる。
インターネット配信の場合は、勝手にコンテンツが流れ出すと言うことはない。能動的にそのコンテンツを見たいと考え、手を動かした人だけがそのコンテンツを視聴することになる。
テレビ放送では、PR不足やマーケティングの失敗等をカバーできる可能性があるのに対して、インターネット配信ではそれは不可能に近い。

手軽さ・アクセスのしやすさ

テレビは、見たいコンテンツがあったときに、指定された時間に「電源をつける」「チャンネルを決める」だけでそのコンテンツを視聴することができる。
録画をするときでも、時間とチャンネルを指定すればどんな番組でも同じように録画できる。


一方、インターネット配信は配信ページにたどり着くまでの方法がコンテンツごとに異なる。
配信サイトにより、視聴までに行う操作がまちまちだったりする。たとえば公式サイトのトップページから配信サイトへ直接リンクが張られていたり、公式サイト内の1コンテンツとして表示されていたり。配信サイトでの登録が必要で、コンテンツごととまではいかないまでも同じような登録を何度もさせられるなど。
コンテンツごとに配信サービスの提供方法がバラバラで視聴するまでの方法が統一されていないために、コンテンツへのアクセスまでのハードルが高く、見たいと思ったけれども面倒くさくて見るのをやめたという人がでて来かねない。
これは、もちろん専門のポータルサイトかなにかができて、全てのコンテンツを同じ方法で掲載するということができれば解決するのだが、現実には複数の配信サイトやポータルサイトが競い合っておりどれか一つに集約されるということはなさそうだ。

テレビ番組の中のアニメ番組

テレビでは、ニュース、スポーツ、バラエティ、映画、アニメといろいろなジャンルの番組が放送されている。
日本人のほとんど全員がテレビを見ており、映像コンテンツの消費の場として大きな存在感を示す。同時に、テレビ(特に、地上波テレビ)は様々な趣味・嗜好をもつ不特定多数の人間に対して、特定の種類の映像コンテンツを紹介する場でもある。


アニメにとっては、テレビ(地上波テレビ)とは将来のお客さんを呼び込む場でもあるということだ。
一般人がアニメファンとなっていく場は、おそらくほとんどテレビだろう。アニメ好きな人から勧められてDVDを借り、色々見ているうちに好きになるということもあるかもしれないが。ほとんどの人が、テレビ放送でいろいろな映像コンテンツを見ているうちに、アニメが好きだという結論に達したのではないだろうか?


つまり、テレビはアニメファンを作るための仕掛けであるとも言える。(逆に、アニメファンが映画ファンとなったりする可能性もあるのだが)

アニメはテレビ放送しなくてもやっていける?

テレビ放送は、DVDを買ってくれるコアなファンへ向けた広告であると同時に、一般人をアニメファンに変えアニメファンをコアなファンへと変えるための道具である。


DVD販売にせよ、これから来るかも知れないインターネット配信を中心とした場合にせよ、アニメビジネスは、アニメが好きでアニメを見たいと能動的にコンテンツにアクセスする人を対象とすることになる。
インターネット配信による収益構造がしっかりしてくれば、テレビ放送を行わなくても利益が得られるようになるかもしれない。


しかし、その場合新しいアニメファンの獲得は非常に難しくなる。
アニメビジネスの対象者が「既にアニメを好きな人」となってしまい、その事業の中に、一般人がアニメを好きになるための仕掛けが存在しなくなるためだ。


アニメがテレビ放送をやめるためには、テレビ放送の広告効果が必要ない収益構造を構築することに加えて、一般人をアニメファンへ変える代替的な方法を考えなければならない。
あまり、こういった議論を目にすることはないのだがどういった方法が考えられているんだろうなあ?