ニコニコ動画でDVD売上が減った?

日本映像ソフト協会が出しているDVD販売に関するデータを見て、ニコニコ動画のせいでDVD売上が下がったという主張(追記で訂正済?)があった。

http://pythonbeginner.blog78.fc2.com/blog-entry-315.html

日本映像ソフト協会の最新の資料によると2007年4月のDVDの販売額が激減している。販売用のDVDビデオの販売額は前年の同月比に比べ、65%と激減している。新作の数も減少していれば、説明もつくが新作の数は前年同月比にくらべ、104%と増加している。これはニコニコ動画のせいか?ニコニコ動画にはアニメを中心にテレビ番組が多数アップロードされている。それも新しいものから古いものも含めてだ。一部では宣伝効果があるという見方があるが、一方でニコニコ動画で見られるせいで本来であればDVDを買ったりレンタルしていた人が買ったりレンタルしたりしなくなるという見方もある。個人的には両方あるだろうが、今回の資料を見る限りどうやら後者の方が強いと考えられる。

タイトルが刺激的でおもしろいのだけれど、さすがにそれは暴論だろうということで少し検討してみる。

DVDソフトの内訳とDVD売上(全体)への影響力

ジャンル別のDVD売上

まずは、簡単な話から。
当たり前だけど、DVDの売上はアニメが全てではない。
日本映像ソフト協会によれば、2006年のジャンル別DVD販売構成比は次のようになっている。

ジ ャ ン ル 構成比(販売数量) 構成比(販売金額) 単価
邦画(TVドラマを除く) 8.3% 10.7% 4,026
洋画(TVドラマを除く) 32.7% 24.8% 2,387
海外のTVドラマ 6.8% 8.4% 3,867
日本のアニメーション( 一般向け) 17.% 24.2% 4,471
音楽(邦楽) 9.9% 9.5% 2,996
芸能・趣味・教養 6.1% 6.% 3,068
その他 19.% 16.6% -
100.% 100.% 3,145

(構成比が5%以下のものはその他とした)


洋画と一般向けアニメ(子供向けアニメと対比させた名称)であわせて売上の5割近くを担っている。
それにつづいて、音楽DVD、邦画、海外TVドラマがつづくが、それら一つ一つでは全体の1割に満たない。
大ざっぱでよければ、洋画と一般向けアニメとそれ以外という括りとして考えることができる。
したがって、DVD販売数の増減に関して大きなインパクトを与え得るのは、洋画と一般向けアニメのいずれかと考えられる。

洋画と一般向けアニメDVDの単価

洋画と一般向けアニメは、売上数量では洋画が33%で一般向けアニメーションの17%のほぼ倍となっているのに販売金額ベースではそれぞれ25%ずつと拮抗している。
これは、単価の差から来るものだ。洋画の単価が2400円に対して、一般向けアニメーションは4500円と倍近い。
洋画が薄利多売という策と採るのに対して、一般向けアニメでは少数に対して高い価格で販売するという方法が採用されていることを意味する。


ここで、2007年4月のDVDの販売額と販売数量の前年同月比を見てみると販売額は65%、販売数量は56%となっている。
販売数量が44%も減ったのに金額としては35%しか減少していないということになる。
この事実からは、単価の低い商品の売上げが大きく減少した、つまり洋画DVDの売上が減少したという可能性が示唆される。

DVD売上の増減

日本映像ソフト協会の売上データから一般販売のDVD売上の前年同月比等を抜き出してみた。
単位は金額(百万円)、数量(千枚)、単価(円)である。

  • 2007年
- 1月 2月 3月 4月
前年同月比(金額) 102.5% 93.6% 120.% 65.%
前年同月比(数量) 91.1% 85.% 119.% 56.%
販売金額(一般販売) 16,978 14,340 20,459 14,525
販売数量(一般販売) 4,905 4,257 6,052 4,904
単価 3,461 3,369 3,381 2,962
  • 2006年
- 1月 2月 3月 4月 5月 6月
前年同月比(金額) 114.4% 92.2% 98.6% 106.5% 114.2% 78.1%
前年同月比(数量) 119.2% 104.3% 80.4% 113.6% 124.9% 79.3%
販売金額(一般販売) 16,567 15,319 17,047 22,350 15,344 16,230
販売数量(一般販売) 5,387 5,006 5,084 8,764 5,632 5,820
単価 3,075 3,060 3,353 2,550 2,724 2,789
- 7月 8月 9月 10月 11月 12月
前年同月比(金額) 84.8% 89.% 63.% 90.7% 67.4% 98.9%
前年同月比(数量) 86.1% 100.3% 65.% 110.1% 59.4% 102.%
販売金額(一般販売) 17,241 16,672 13,947 17,172 24,086 30,883
販売数量(一般販売) 6,883 6,302 4,697 7,033 8,515 9,584
単価 2,505 2,646 2,969 2,442 2,829 3,222
単価 2,505 2,646 2,969 2,442 2,829 3,222
  • 2005年
- 1月 2月 3月 4月 5月 6月
前年同月比(金額) 90.8% 105.6% 84.6% 104.% 69.8% 90.4%
前年同月比(数量) 102.2% 117.9% 88.8% 104.9% 62.8% 81.6%
販売金額(一般販売) 14,480 16,610 17,289 20,993 13,441 20,792
販売数量(一般販売) 4,518 4,801 6,325 7,716 4,508 7,336
単価 3,205 3,460 2,733 2,721 2,982 2,834
- 7月 8月 9月 10月 11月 12月
前年同月比(金額) 99.4% 108.2% 105.9% 106.5% 164.3% 87.1%
前年同月比(数量) 124.5% 112.% 112.7% 106.6% 174.5% 81.1%
販売金額(一般販売) 20,331 18,723 22,154 18,934 35,717 31,227
販売数量(一般販売) 7,994 6,280 7,231 6,389 14,339 9,397
単価 2,543 2,981 3,064 2,964 2,491 3,323


増減の大きい月を抜き出してみる(20%以上)と以下のようになっている。

  • 2007年4月
  • 2006年5月,6月,9月,11月
  • 2005年5月,7月,11月

4月に1度は20%を超える増減があると考えると、2007年4月の減少はそれほど奇異な現象とは言えない。

大作映画による変動

30%を超える増減だけを見ると2005年11月,2006年9月,2006年11月,2007年4月である。
2005年11月,2006年11月の増減は、2005年11月に『スターウォーズ』『ハウルの動く城』の二つの大作DVDが発売されたことによるものと思われる。これらはともに累計100万枚を超える売上を記録している。2006年11月はこのような大作DVDは発売されていない。
2005年9月には『ファイナルファンタジー7』『スパイダーマン』が発売されている。二つであわせて年間100万枚に近い。やはり2006年9月には大作DVDは発売されていない。
同じように、2006年4月には『ハリーポッター(炎のゴブレット)』(年間売上120万枚)の発売があった。2007年4月は大作DVDの発売はなかった(『時をかける少女』は多くて10万枚程度)。その反動で2007年4月の減少率が大きくなったと言える。

(追記)
4月のDVDの売上前年比が悪いのは、ニコニコ動画とは関係ないんじゃない? - 万来堂日記3rd(仮)

去年の四月には、こんな超ビッグタイトルがでてたわけだから。

4月に前年同月比いくわきゃないって(笑)。

と、実際に販売をしている人の感想があった。一つの証左といえるかな。
(追記おわり)

洋画の不調

2006年は邦画の興行収入が洋画の興行収入を上回るなど、類を見ないほど洋画の興行が低調であった。
2007年に入ってからの洋画DVDの新作は2006年に公開された映画のものであるため、2006年の興行と同様に洋画のDVD販売が低調になると思われる。
2007年の月別売上をみると、3月をのぞき販売数量が減少し、かつ、DVDの単価が軒並み上昇している。このことからも洋画の低調さが伺える。

まとめ

以上のように、

  • 30%以上の増減は珍しいが前例がないわけではない
  • 大幅な増減は大作映画DVD等の発売時期により起きている
  • 2007年は洋画DVDの売上が不調

の3点から、4月のDVD売上減少を説明することができる。

アニメDVD購入とニコニコ動画

アニメDVD購入の動機とニコニコ動画

動画サイト(youtube,ニコニコ動画等)への違法アップロードと一般向けアニメーションのDVD売上に負の相関関係は生まれないだろうと考えている。
一般向けアニメーションDVDの購入の動機は、コレクション、いつでも見られること、高品質なアニメーションが見られることの3つがメインと考えられる。
ニコニコ動画(youtubeも)では、パッケージや特典を手にすることができない。アップロードされている限りはいつでも見られるが、いつ削除されるかわからない。品質は低い。このように、ニコニコ動画はそのいずれも充たすことができないため、DVD購入者がニコニコ動画にアップロードされているからと言ってDVD購入をやめる動機にはならない。


ただし、「一度見る」ことを主な動機とするレンタルビデオやインターネット配信サービスについては、ニコニコ動画でもその動機を充たすことができるために影響が出ることも予想される。
これについては、レンタル回数やインターネット配信サービスに関するデータが出てこないことには検討のしようがない。

ニコニコ動画の影響が出るとすれば6月以降

ニコニコ動画のアクセス数が伸びたのは2007年3月4月あたりからである。時間の都合もあり映画はほとんどアップロードされていないことから、影響があるとすればアニメーションDVDの販売だろう。旧作のアニメーションについては、もともと殆ど売上がないためニコニコ動画による影響が出ることもない。したがって、ニコニコ動画が影響を与えるとすれば、2007年春に始まった新作アニメーションのDVD売上と考えられる。
その新作アニメーションのDVD販売は6月から行われるため、その影響が見られるとすれば6月以降であろう。