テレビと、コンテンツのフリーライダー

 おもしろいブログをみつけた。
Youtubeには広告効果はない。(断言) : ニセモノの良心

 フリーライダーに恩恵ばかりあって、権利者には何のメリットもない。権利者がムキになって消す理由も分かるわな。


ということで今後「広告効果があるのに消すなんて、権利者は馬鹿だ」なんて言ってる奴は、広告効果があるというソースを例示してからしゃべるように。

それと権利者は「馬鹿でいる」権利もあるということも忘れずにね。


 このブログを書いている人は、地方テレビ局勤務の方で、コンテンツのフリーライダーが大嫌いとのこと。ウェブ上では圧倒的に消費者側の主張が多く、こんな風に権利者もしくは権利による収益で食べてる側の主張はあまり見たことがない。
 この方の感情と、テレビ局という立場での主張が一致するのか、全く別のものなのかは定かではないけれど、比較的一致するものとして、なぜコンテンツのフリーライダーを嫌うのかを考えてみた。

コンテンツのフリーライダー

 コンテンツのフリーライダーというのは、コンテンツ(映像や音楽)をお金を払わずに消費するひとのことと考える。
 たとえば、音楽を聴くためにはCD(音楽データ)を買ったりレンタルする。映画は、映画館でお金を払ってみる。DVDも買うかレンタルしてみる。ゲームも買ってあそぶ。テレビ番組は、直接お金払わないけれどもCMを見るという行為が対価となる。CMの制作費や放送手数料などは実際の商品の価格に上乗せされて、最終的に消費者が支払うといえなくもない。
 それに対して、フリーライダーは対価を支払わない。YoutubeP2P(Winnyなど)でダウンロードしたコンテンツを消費する。そこにはお金を払うことも、CMを見るという行為もない。

コンテンツの消費方法とフリーライダーの消費者像

 コンテンツの消費方法は、主に購入、レンタル、無料消費とに分けられる。
 コンテンツの購入は一般的に非常に高価だ。映画のDVDやテレビゲーム、CDなどで数千円。アニメ、ドラマに至ってはシリーズすべてをそろえようとすれば数万円(2万円〜8万円くらい)の買い物になる。それに対して、レンタルは安価な消費方法といえる。DVDやCDを一枚借りるのに数百円ですむ。無料消費は、消費者がお金を支払わない消費方法でテレビの視聴はお金を払わないという点では、無料消費といえる。その他は他人や図書館から借りるといった消費方法である。そこに、最近になってYoutubeP2Pなどインターネットによる無料消費が入ってきた。
 購入とレンタル及び無料消費には、金額的に大きな差がある。特に高額の商品であるアニメやドラマのDVDなどは、全体の消費を100とすれば、購入という行動を取る人は1に満たない程度でしかない。音楽CDや映画DVDもそこまで極端ではないかも知れないが、似たようなものといえる。


 購入する消費者は、嗜好性の高いコンテンツに対してお金に糸目をつけない人たちであり、YoutubeP2Pで見られるからといって購入しなくなるわけではない。出せるお金がなくなったときに無料のものに手を出すことになる。
 それに対して、もともとそれほどコンテンツに対して対価を支払う余力やその気持ちがない人たちは、レンタルでの消費や無料消費を基本とする。消費者にとっては、お金を支払わないという点では、テレビ視聴による消費もYoutubeP2Pによる消費もかわらない。

DVD販売とフリーライダーによる損害

 リンク先ののエントリでは、実際のある作品のDVDがYoutubeで見られるようになってから1本も売れていないということを根拠として、広告効果がないという。DVDの購入者の割合は少なく、また普段から購入するひとは既に多くの商品を買っているため、DVD購入に対する効果はほとんどないことは予想に難くない。
 ただし、広告効果はないけれども、DVD販売を主な収益源とする権利者たちにとっては、フリーライダーの存在によって経済的な不利益が生じることもない。

レンタルとフリーライダーによる損害

 レンタルによる消費は、購入に比べ、損害を受けやすい。コンテンツは基本的には1度消費すればよく、2度3度と消費をしたいと思うことはそれほど多くないため、Youtubeなどで無料で1度消費されてしまえば、レンタルによって得られたはずの収益が得られなくなってしまう。ただし、無料消費には、見たいものがたまたま無料で見られたからという積極的な意思の場合と、無料だからとりあえず見たという消極的な意思の場合もあり、無料消費がそのまま収益源に結びつくとは限らない。
 また、無料視聴による広告効果が出る可能性もある。劣化した映像では満足できない場合や、アニメ・ドラマのようにシリーズものの場合には、続きが見たい、他のバージョンが見たいという欲求によりレンタルによる消費が増える可能性もある。Youtubeの視聴数に比べてレンタル数が増えるのか減るのかは、興味があるところだが、実際にどうなっているかは全く知らない。

テレビ視聴とフリーライダーに損害

 テレビ視聴は、Youtubeなどの無料消費による損害を最も受けやすい。
 フリーライダーはもともと安価なレンタルでの消費や、無料消費を好む人たちなので、フリーライダーが増えるとテレビ視聴という無料消費から、Youtubeなどの消費に移動が起き、テレビの視聴率が下がるという現象が起きかねない。
 それも、自分たちが制作して放送したコンテンツによって、現在自分たちが放送するコンテンツから上げられる収益が減るという点は、悪夢のようだろう。

広告以外の効果

Youtubeなどによる無料視聴によって権利者側が得られる効果は、広告効果だけでなく、映像消費という生活スタイルが挙げられるとおもう。ただし、それは広告効果よりもずっと抽象的で測定も困難なので、効果があることを実証することは難しい。

これはある調査データの話になるんですが、レンタルすればする人ほど、セルを買う傾向があるんです。つまり、映像を気に入れば気に入るほど、いろいろな作品を楽しむようになる。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20070209/118743/?P=2より

とあるように、映像消費を生活スタイルにとりこんだ人、好きになった人ほどレンタルするし、さらには購入するようになる。
Youtubeなどの無料視聴とレンタルとの間に似たような関係があるかどうかは、ここでは話の対照となっていないが、YoutubeP2Pは見たいと思う作品がいつでも手にはいるわけではないことを考えれば、レンタルによる消費をする人が増えて行く可能性も充分にあるのではないだろうか。そして、レンタル消費者が増えれば、DVDなどの購入者も増える可能性がある。

DVDの販売が主な収益源となる映画やアニメなどの製作者にとっては、直接的な被害はそれほど多くなく、潜在的なDVD購入者のコンテンツ消費生活への入り口となると考えれば、業界全体としてはそこまで目くじらを立てる意義は多くないのかも知れない。

それに対して、「することがないからとりあえず見る」という部分でも収益を稼ぐテレビ局にとっては、「とりあえず見る」人たちが、Youtubeなどへ移行するだけでも大きな損害となるため、決して認められるものではないだろう。

まとめ

長くなってしまったが。まとめ。
テレビ放送とYoutube等によるフリーライドは、「お金を払わずに見る」「とりあえず無料だから見る」というニーズを満たす媒体という意味では、消費者にとって等価なものである。
そのため、今までそのニーズを独占してきたテレビ局にとっては、その損害が大きい。さらに言えば、自分たちの制作したコンテンツが自分たちの首を絞めるなんて、許せない。
ということだろうか。