エロゲ同人サークルへの投資ビジネス

とってもおもしろい話題を見つけた。
メモと、いくつか私も考えたことを。

話題のきっかけ

http://d.hatena.ne.jp/si-no/20080429/1209483371

 日本人の起業スタイルが、アメリカのものと比べて異なっているのは、ただビジネスのスタイルが違うだけの問題じゃない。その点を抑えないで「なぜ日本にはシリコンバレー型の、ITベンチャーが育たないのか?」……と議論をしても不毛なんだ。

 だが最も注目しなければならないのは「オタクのヒューマンリソースが何処に向けられているのか?」……ということだ。

 アメリカのギーク (geek) は、プログラミングを通して積極的にIT技術の構築に関わっているのだけれど、日本のオタク・ヒューマンリソースのほとんどは、プログラミングだけではなくてアニメ、ゲーム、マンガなどのコンテンツ市場に関わっている。

 もし仮に日本がシリコンバレーのような構造を備えた市場を造り出そうとするのならば、あるいはコンテンツ市場を今まで以上に発展させようとするのなら、「オタクの技術や発想力+経営力+資本力」という体制を早急に整えて、コンテンツ市場におけるベンチャー企業とでもいうべきシステムを確立すべきだ。

同人サークルをベンチャーと見立てたときに足りないもの

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まず、オタク文化に関連する企業、特に中小メーカー、は経営的なセンスに欠けている所が多い。
何と言うか、職人の集まりみたいな印象が強い。

まず一つは、単純に資金を投資しても面白い話・魅力的な絵が描けるとは限らない事。
どの投資分野でもそうなのだが、これの場合芸術的な側面が強いため、より作者本人の才能・センス
に依存する度合いが強くなってしまい、資金=作品の質にはなかなか結びつかない点。

二つ目は、協力する人・組織がいない点。
他の同人サークルに投資するほど体力のある企業はかなり限られてくる。
エロゲーメーカーなら最大手クラスでもなかなか厳しいかもしれない。
角川辺りが乗り出してくれれば良いのだが。

三つ目は、オタク市場が投資資金を回収できるだけの規模か、という事だ。
一言にオタク市場と言っても、非常に細分化されており、隣のオタクが好きな分野とは相容れないと言った事がよくある。
そこから資金を回収できるだけの利益を生み出すには、短期的なヒットではなかなか厳しいかもしれない。
継続的に、何本もヒットを生み出さなければならないかもしれない。

ベンチャー的なことをやってる企業もあるよという話

http://ralf-halfmoon.jugem.jp/?eid=175

 同人ソフトサークルをベンチャーに例えるなら、ベンチャーキャピタリスト的なことをやっている企業は既にあります。戯画がそうです。
 いまさら説明するまでもないかもしれませんが、戯画パートナーブランドと呼ばれているエロゲブランドは、すべて戯画=テイジイエル企画に出資してもらって企業になったものです。

 ただ、その中身はパートナーという名前ほど生暖かいものではなく、結構実態はシビアだといいます。売り上げの何%かをごっそり持っていかれるとか。都市伝説ですけどね(重要
 要するに、その場その場で利益を確保することしか考えてないんですね。各ブランドを大きく育てて、将来的に巨利を得ようとかって広いビジョンは持ってない。

 基本的にエロ産業ですから、有名企業がおおっぴらに出資するなんてことはありえないわけです。どんなに儲かるとしてもね。
 しかも儲かるって言ったって一番売れて15万本=売り上げは14億円程度ですから、開発期間その他を考えると、大企業にとってはそこまでおいしい話でもないんです。

私の考えたこと

エロゲーを作るサークルを念頭に考えています。

同人サークルとベンチャーの違い

同人サークルをベンチャーとみなすというアイデアは非常におもしろいと思ったが、以下の点が違うのかなと思う。


1. 動機が異なる
IT系などのベンチャー企業というのは、いわば一つのアイデア・ネタを実現させて、初期の投資を100倍1000倍にしようというお金儲けが目的となる。アイデア・ネタの中には職人的能力・技術力なども含まれるが、それを核として一発当てようという意思が不可欠だ。
それに対して、同人サークルは作品を作ることが目的で、利益獲得の目的も、どちらかといえば作り続けるために安定した収入が必要だからという理由なような気がする。
そこらへんのバイタリティというか、お金儲けへの意識が違うんだろう。同人サークルでも利益を第一目標とするところもあるかもしれないが、100倍1000倍にというスケール感はないように思う。


2. EXITの方法が少ない
ベンチャー企業は、IPOによる株式売却もしくは業界大手企業への会社の売却によって投資を回収することが一定の目標となる。それが叶うのは、育てたアイデアが継続的に利益を生み出すようになったから。
コンテンツを作る同人サークルの場合、一つの作品が爆発的に売れたからと言って次の作品が同じように売れるとは限らず、継続的にキャッシュを生み出すとは限らない。そのため、(IPOは論外として)育てた企業を大手に売却するというやりかたも難しいものがある。


ベンチャー企業として考えるのであれば、作品を生み出す企業ではなく、どんなコンテンツに対しても対応でき、かつ、そのコンテンツの収益を確実に増やすようなビジネスということになるのだろう。
たとえば海洋堂のような企業がそれに当てはまるように思う。会社サイトを見てみたら、資本金が2000万円だった。年商30億円で着実に成長中。*1おそらく売却を考えた場合には、資本金の10倍100倍といった値がつくだろう。


資金はいらない

エロゲーが前提の話になるが。
たぶん、1500万円ほどもあれば商業ベースに乗るゲームを作ることができるんじゃないだろうか?
制作に関わる5人が300万円ずつ出せばいい。死にものぐるいで1,2年働くか、知人親戚から借りることで、それくらいならば作れる。
制作スタッフが自分たちの労働時間を出資と考えるのならば、必要な現金も半分くらいで済む。


ITベンチャーなどでも、はじめの数百万円の資金はそうやって集めたものだろう。
ベンチャーキャピタルが出てくるのは、その次のステージだ。
1000万円で始めたビジネスで、資本を倍の2000万円まで増やすことはできた。その資本をさらに10倍の2億円にする道筋は見えているんだけれども、そのためには今、現金が2000万円必要だ。といったときに、登場するのがベンチャーキャピタルなわけで。
同人サークルがそういった状態にはなりえない。むしろ、いまのエロゲ業界の中堅から大手にさしかかるくらいのところがそういった投資資金を望むステージにいるんじゃないだろうか。(エロに対して投資できるベンチャーキャピタルや会社自体、ないんだろうけど)

サークルへの投資ではなく、作品への投資

同人サークルは、企業としての継続性を考えるにはあまりに不安定な要素が多すぎる。
感覚的に考えたときに、同人サークルに対して2000万円を投じてそれが3年後に5倍の1億円になる可能性と、特定の作品に2000万円を投じて1年後に2倍の4000万円が帰ってくる可能性を考えたときに、どちらが確実かと言えば、おそらく後者なんだろうと思う。
そういう意味では、作品に対して投資をするということのほうが現実的だ。

エロゲ業界のベンチャー企業の可能性

個人的な考えとして、次の2点を考えることになる。
・サークルではなく作品に投資をするべき。
・どの作品に対しても適用可能な付加価値を生み出すシステムを作るべき。


そこから考えられる一つの方法として、同人ゲームを商業ベースの質に高めるというビジネスがありそう。
一定の人気を得た同人ゲームに対して投資を行い、予算内で商業ベースの質の作品に作り替え、十分な宣伝をするという能力・ノウハウがあれば、安定した利益を得ることができるんじゃないだろうか。
ただ、商業エロゲーつくる会社ならば、どの会社も参加できるビジネスなので。一旦成功するということがわかれば、一気に競争が激化することになる気もする。


目利きの部分であったり、たぐいまれなマーケティング力であったり、そういった何かコアな部分を作り上げられれば、現在の邦画業界における東宝のように成功する可能性は高まるのだろう。