赤字でも黒字になる映画製作

コンテンツ製作で不思議なところとして、プロジェクトの収支が平均的に赤字であったとしても、出資企業がなくならないということがある。
これは、コンテンツ製作プロジェクトそのものが赤字だったとしても、個々の出資者にとっては黒字となるためだ。


映画を例にして、プロジェクトの収支・出資者個別の収支を数字をつかって考えてみる。

赤字のプロジェクト収支

たとえば、興行収入が10億円だった映画プロジェクトの成績を考えてみる。


数字は興行収入を10億円としてだいたいの数字を当てはめていく。
映画プロジェクトの収益源は主に映画興行、パッケージ、テレビ放送の三つ。
興行収入に対して、パッケージ売上は2倍くらい、テレビ放送売上は9割くらい。
参考:
「メディア・ソフトの制作及び流通の実態」2005年度調査報告書 (PDF)
http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/survey/telecom/2006/2006-1-02-3.pdf


興行収入のうち50%が映画館、20%が配給会社、5%が幹事会社、残り25%が製作委員会に配分される。
パッケージ売上のうち30%が小売・流通業者、35%がDVDメーカー、残り35%程度が製作委員会に配分される。
テレビ放映権は、配給収入の1割程度。

製作費は10億円で、60%を制作に40%をP&A費に使用する。

収益  
映画興行 250,000
パッケージ(DVD等) 600,000
テレビ放送 50,000
収益合計 900,000
費用  
制作費 600,000
広告宣伝費 500,000
費用合計 1,100,000
損益 -200,000


結果は、2億円の赤字となる。
この2億円は、製作委員会の出資メンバーで補填されることになる。

出資各社にとっては黒字

  興行会社 配給会社 テレビ局 広告代理店 DVDメーカー 出版社 制作会社
収益              
各社収益 500,000 200,000 900,000 400,000 600,000 100,000 600,000
幹事会社手数料   45.000          
費用              
各社売上原価 475,000 1200,00 540,000 340,000 390,000 65,000 570,000
赤字補填額 0 60,000 40,000 40,000 40,000 20,000 0
               
損益 25,000 65,000 32,0000 20,000 170,000 15,000 30,000


出資各社にとっては、興行会社ならば映画館での上映、配給会社は配給、テレビ局はテレビ放送、広告代理店は映画広告の受注(よく知らないが全額受注と仮定)、DVDメーカーはDVDの販売、出版社は原作本の売上げ増加(1億円とした)、制作会社は映画の制作と、個別の収益を得ることができる。
各社の収益に対する売上原価は、適当な会社の有価証券報告書における原価率を用いた。
具体的には、興行会社(東急レクリエーション 95%)、配給会社(東宝 60%)、テレビ局(フジテレビ 60%)、広告代理店(電通 85%)、DVDメーカー(バンダイビジュアル 65%)、出版社(昭文社幻冬舎)である。制作会社はよくわからないので95%と仮定。
売上原価に加え、出資者はさらに赤字補填額が費用として計上されることになる。


その結果、各社の損益を見ると、全てが黒字になっていることがわかる。

プロジェクトが赤字で、個々の出資者は黒字の理由

これらの数字は幾分恣意的ではあるが、それほどに的外れな数字でもないだろう。
また、出資者は売上原価以外に独自の広告宣伝などを行うために、赤字になることも十分にあり得る。


とはいえ、製作委員会出資者は、映画コンテンツをつかって自分たちの事業により利益を上げることができる。
たとえ映画プロジェクトそのものが赤字となったとしても、事業による利益と出資による損失を勘案した結果が黒字になるということであれば、各社にとって出資を行って映画を製作するメリットがあると言える。


同じ映画というコンテンツに対するものでも、収支を見ている部分が各社で異なり、核となるコンテンツの収支だけを見ているというわけではないのだ。
その結果、端から見ると、赤字なプロジェクトに延々と投資を続ける映画関連会社という不思議な現象が起きる。