伝承・伝統文化の消滅と政治

なにか引っかかるとことがあるのだけれど、うまく考えがまとまらないが、とりあえず書いてみる。


一月ほど前、アイヌイヨマンテ(熊送り)という儀式通達により禁止されていたが、その禁止通達が廃止されていたというニュースが流れた。イヨマンテは、クマの姿をして人間界を訪れた霊魂を神の国に送り返すアイヌ民族の重要な儀式だったが、行政による「野蛮だ」という判断で禁止され、儀式は急速に廃れていき、現在では殆ど残っていないという。


ちょうど同じ時期に、『精霊の守り人』という本を読んだ。
その中では、先住民による口頭伝承が新しく建国した国(王=神さま)にとって都合が悪いということで、改変され上塗りされていることが一つのテーマとなっていた。国にとって不都合なことを消去するために、もともとあった伝承を改変し、また先住民の他の文化も消えていったという中で、その改変される前の伝承にこそ真実が描かれていたという話。


その二つから連想したのが、『ONE PIECE』というマンガの挿話。
伝染病が流行することは、神の怒りをかったからだとして、神と崇める大蛇に村の少女を生け贄に差し出すという儀式を行う村があった。外から来た人間は生け贄の少女を助けるため大蛇を切り捨てる。外から来た者は病の原因も治癒方法もわかっていると主張するが、村人たちは信じず神を殺めた人間を憎む。「病の原因・治癒方法は別の国で多大な犠牲の上に確立されたものだ、その事実を認めず神の意思などというのは、治癒方法を見つけ出した人たちへの冒涜だ」として実際に病を治してみせ、大蛇を神と殺める文化は消滅する。


どれも、外からの押しつけによりそれまでの伝承・文化が失われていくという内容で共通している。しかし、その印象が大きく異なるのがこの三つの話だ。
価値観が変化することで文化の内容が変わっていくのは当たり前のことだ。新しい文化が良いか、旧い文化が良いかというのも、現在の価値観に即したものでしかない。文化は、変化の時点では、旧い文化よりも新しい文化のほうが良い(都合がよいなども含めて)という理由で変化する。それが幾ばくかの時を経て、やはり旧い方が良かったということもあれば、新しいことが良いという評価もある。
「伝統文化を守ろう」とかよく言われるけれど、それも旧い文化を美化した結果であることが多かったり、守るために何かをすることで既に過去の文化とは違ったものが伝えられていくことにもなる。また、全ての文化を保存することなどできなくて、そこにもどの文化を残すべきかという現在の価値観による判断がはたらく。


まとまりも、結論もないけど、なんだか頭の中で引っかかり、もやもやしてる。

イヨマンテ禁止通達の廃止の記事(参考)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007042902012448.html

 生け捕りしたクマの霊魂を神の国へ送り返すアイヌ民族の伝統儀式「イヨマンテ」について、北海道が一九五五年に「生きたクマを殺す野蛮な行為」として事実上禁止していた通達を今月、五十二年ぶりに撤廃していたことが二十八日までに分かった。

 イヨマンテはクマの姿をして人間界を訪れた霊魂を神の国に送り返すアイヌ民族の重要な儀式。その際、一、二年間育てた子グマを殺して解体、肉をふるまう。

 北海道は五五年に当時の知事名で「野蛮な行為で廃止されなければならない」と市町村長に通達、学術研究や観光目的で行われる以外はほとんど行われなくなっていた。北海道ウタリ協会が数年前に通達を発見し、道に撤廃するよう働き掛けていた。

 一方、環境省が昨年十月、動物愛護管理法の基本指針で、動物を利用した祭礼儀式について「正当な理由で適切に行われる限り、法律に抵触しない」と明記。道が環境省イヨマンテについて問い合わせ「儀式に該当する」と回答を受けたため今月初め、各支庁長などに通達の廃止を知らせた。