海賊版、違法アップロード対策について(2)

前回

(海賊版、違法アップロード対策について - Obra de Sobra よしなしごと)

前回は

  • 映画・アニメの収益源でDVD販売の占める割合が高い
  • 違法コピーを刑罰で抑制するのは短期的な視点
  • 違法コピーを見るな、ではなく見たら対価を払ってとお願いすべきでは?

というような内容を書いてみた。

今日は、その続き。
なぜ、「見るな」よりも「見た作品が良いと思ったら、お金を払って」のほうが良いと考えたのかを書いてみたい。

コアなファンとライトな視聴者

映画・アニメの視聴者には、コアなファンとライトな視聴者が鋳る。


コアなファンは、可処分所得の大半をその趣味へと費やす事ができる。つまり、映画・アニメが大好きで、そのためならばお金に糸目をつけない。


ライトな視聴者にとっては、映画やアニメは娯楽の一つに過ぎず、それらのために多くのお金を費やすことはない。
ライトな視聴者は、基本的に作品は一度見れば満足でき、作品の所有に対する欲求が少ない。また、映画やアニメに使える金額の上限も低い。


収益源として興行・DVD販売を考えた場合、そのターゲットとなるのはコアなファンである。
DVD販売による収益を柱としたビジネスを展開するとき、ライトな視聴者はDVDを購入しないため、コアなファンから最大収益を上げようと高めの価格設定となる。


コアなファンは一定数(100万人程度だろうか?)しかおらず、彼らの可処分所得も限られるため一度飽和してしまうとそれ以上の収益を上げることは難しい。


現在の映画・アニメ業界が直面しているのは、まさにこの点であろう。
映画は、2006年に邦画のシェアが50%を超えるという結果を得たものの、映画館に足を運ぶのべ人数はほとんど増えていない。アニメも、確実な商売だとコアなファン向けのアニメが乱発されたものの、コアなファン自体は増えていないために一作品あたりの収益が減少し、過当競争が生じている。

収益を増やすには

映画やアニメは、現在、収益を主に高価なDVDの販売に依存しており、収益はコアなファンからのみ得られる。

収益を増やす方法として考えられるのは、コアなファンを増やすこと、ライトな視聴者から収益を得ることの二つである。

違法コピーの利用者

コアなファン、ライトな視聴者とも違法コピーを利用していると思われる。


コアなファンは可処分所得の大半を趣味に費やすため、違法コピー利用の理由の大半が「お金が足りないから」「作品にアクセスする方法が他にないから」というものであろう。


ライトな視聴者が利用する理由は、「安価に利用でできるから」「作品にアクセスする方法が他にないから」というものであろう。


この場合、違法コピーが流通することによってDVD販売はほとんど打撃を受けていない。
打撃を受けている可能性としては、DVDレンタル業であろう。


この仮定は推測でしかなく、具体的な調査が必要だと思われる。
また、次の話の展開もこの仮定を基にしているので、留意が必要である。


コアなファンを増やす

コアなファンとライトな視聴者には大きな隔たりがある。
この大きな隔たりのため、ライトな視聴者をコアなファンとして育てるのは容易ではない。


しかし、それでも少しずつコアなファンを増やしていこうと思えば、ライトな視聴者をコアなファンへと変えていくしか方法はない。
DVDの購入者の属性を見ると、「レンタルビデオ店の利用者ほどDVDの購入するなど、映像に触れる機会が多い人ほど主たる収益源であるDVD購入へと結びつきやすい」ということがあるようだ。
従って、コアなファンを増やす方法として有効なのは、ライトな視聴者により多く作品に接してもらう機会を増やすということであろう。


その目的を考えると、違法コピーを禁止することは得策ではない。
まず、無料で見られる状況下で見る人(現状はテレビ放送を見る人?)を増やし、次にレンタル・ストリーミングなどの安価な方法で見たいと思う人を増やし、最終的にDVDを購入するようなコアなファンを増やすという段階を考えるならば、裾野を広げることが大切であり、禁止することは逆効果だと言える。

ライトな視聴者から収益をあげる

ライトな視聴者から収益を上げることは、至難の業と言える。


ここ数年、DVD購入者を増やそうとハリウッド映画などは価格を2,000-3,000円程度に下げて販売をしているが、購入者数は変わらず、元々のコアのファンが数多く買う結果となっただけのようだ。レンタルが普及している日本では、ライトな視聴者は、数百円で見られるDVDを数千円支払って購入しようという意思を持たないと言える。


また、テレビアニメシリーズDVDを購入したいと考えたとしよう。たとえ今のDVDの販売額が半額になったとしても26話(1巻につき3話入って9巻)だと1万円を軽く超えてしまい、払える額ではなくなる。


ここに登場したのが違法コピーだ。
P2Pのダウンロードはタダ。Youtubeもタダ。海賊版DVDは数百円程度で購入できる。
それならば、ということで爆発的に広がりつつある。


ライトな視聴者は、支払える上限が低いため、違法コピーの利用を禁止した場合、多くの人は見ること自体をやめてしまう。
そのことで、テレビ視聴者数が増える、レンタル数が増えるといった事はおきるだろうが、それによる製作者の収入増はそれほど見込めないだろう。
禁止によってDVD販売数が伸びるということは、ほぼあり得ないといって良い。


禁止することで得られる収益はほとんどない。
それよりは、タダで見ても良いから、良い作品だと思ったならばお金を払ってくださいと頼む方が現実的ではないだろうか。


ストリートパフォーマーに小銭を投げるのと同じように、映像作品に対しても、良い作品には幾ばくかの対価を支払うという考えが広がれば、ライトな視聴者からも収益を得ることができるようになる。
実現のためのハードルは大きいが、10年20年スパンで考えれば、価値観の固まる10代の子供たちに対して投げかけるメッセージとしては、「違法コピーは見てはダメ」よりも「良い作品にはお金を払おう」というメッセージのほうが重要ではないかとおもう。

「見るな」より「見た作品が良いと思ったら、お金を払って」

このように、コアなファンを増やすにしろ、ライトな視聴者から収益を得るにしろ、違法コピーを要にすることと禁止することを比べた場合、禁止することで増加する収益は、レンタル数の増加・テレビ視聴率の増加にとどまる。
逆に、禁止することで、未来のコアなファンを失うという機会損失が生じる。

コアなファンはひと月に使うお金が数万円に上る可能性があり、その価値はライトな視聴者の数百倍にも達することを考えれば、未来のコアなファンを失う機会損失のほうが、より大きいと言えるのではないだろうか。