「溶けゆく日本人」と帰納法、印象操作

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産経新聞で、2007年1月から「溶けゆく日本人」という連載企画がスタートしている。
この連載では、日本人のモラルが溶けつつあるということをテーマに、事例を紹介しているというものだ。
その主張は、「日本人は昔に比べモラルがなくなってきている」ということだろう。

帰納法

原理や法則などを導き出す方法の一つに、帰納法がある。
帰納法とは、一つ一つの事例を調べ、それを積み重ね、何らかの法則性を見つけるという方法だ。
経験則の導き出し方と同じなので、それほど大げさなものではなく、日常的に誰もが行っていることと言える。


一つだけの事例では偶然かも知れないので、できるだけ多くの事例を見て、何らかの仮説を導き出す。そして、一度導き出した仮説についても、さらに事例を調べ、仮説に反するものがないか(多くないか)どうかを調べることで、仮説の精度を検証し、必要があれば修正を加えることになる。

帰納法を使った印象操作

産経新聞でのこの連載企画では、短期に集中してモラルが崩壊しているという事例を多く出している。そのことにより、昔は(このような連載企画はなかったため)そんな話を聞いたことはほとんどなかったが、今モラルが崩壊していると言う話をよく聞くという状況が起きる。


ここで、帰納法の考え方により、記事を読んだ人の頭の中には「日本人のモラルは、だんだんと崩壊してきている」という仮説が導き出される。


過去のことは覆すことができないため「昔はモラルが崩壊しているという話をほとんど聞かなかった」という印象は変わらない。そして、連載回数が多くなればなるほど、「最近モラルが崩壊しているという話をよく耳にする」という印象が強まっていく。
この結果、一度生まれた仮説に沿う事例が増えることになり、仮説はだんだんと確信へと向かっていく。

この印象は正しいか?

このようにして生まれた印象が正しいのかどうかについては、もう少し気をつけて考えなければならない。

  • この連載企画の個々の記事では、目を引くような特別な事例ばかりが出されている
  • この特別な事例が過去にもあったかどうかは定かではない
  • 過去から現在にかけてそのような事例が増えたのかどうかについては、取材に応じた人の主観・取材者の主観しかなく、数値としては出されていない

といったことから、「日本人は昔に比べモラルがなくなってきている」という考えが正しいかどうかはこの連載企画からは判断できないように思う。
もちろん、否定することもできない。